句集「風が吹く」 加藤節江著、句集「鼓動」 柳堀悦子著、を読みました。
2023/07/04
十河 智
加藤節江様、柳堀悦子様からお贈りいただき、読ませていただきました。
句集「風が吹く」 加藤節江著
加藤節江様は、90歳を過ぎてから俳句を始められたそうで、作句が楽しくて、百歳までも頑張ると言っておられる。俳句の魅力というか、秘めたる力の素晴らしさを、今更ながらに感じるのである。私も後四半世紀、頑張らなければと、あとに続く元気が貰える。
表紙は、お兄様の作という白磁の壺、なんともやさしく安定した形、活けてみたい。
表題に採られた句は、
風が吹く庭の紅梅満開に
紅梅の少し硬い濃い赤色が庭にしっかり色を拡げている。少々の強い風にも揺るぎない木の姿。老齢の作者に重ねられる古木にちがいない。句集完成も、満開に、重ねられているように思う。
若葉風介護主任の池田さん
紅と白の芍薬土岐の家
よう生きた九十三歳五月晴
三句並んでいる。九十三歳の今と昔に、読ませてもらう私にも感慨が湧く。「よう生きた。」と言えるまで生きたいと思う。
せっちゃんと友が呼んでる夏の朝
私にも思い出が蘇る。大きな声で、道路側から、呼ばれて外に出て遊ぶ、昔はよその家の中で遊ぶのは、ご法度だった。
絵付師の見事に描く秋の薔薇
秋の薔薇なのだ。絶対に。写生なのかも知れない。瓶などの大作なのだろう。
春灯や勝手にしやがれ弟よ
順番通りに逝かなかった弟への苦言。私にも2歳違いの弟がいる。この年になると、わかる気がする。
花見する車椅子とは楽ちんぞ
大病の経験があり、これもよく分かる。で、ずっと車椅子とは行かず、今は、降りて歩く訓練が待っていた。それが苦しい、と、暗に意味があるようである。
兄の釣りし鰻を池に放したり
食べたりするのではなく飼う感覚でしょうか。お兄さんを憧れてみている妹がそこにいます。
あっぱれと自分を褒めて五月来る
五月は誕生月、毎年こうして自分を褒めて迎えるようになるのでしょうね、年ですから。
句集「鼓動」 柳堀悦子著
柳堀悦子さんは、私より七歳お若い。優しい、気持ちの入る俳句である。そして言い切る潔さがある。好きな句をあげさせていただきます。
泥炭の沼や蛍の鼓動めく
泥炭の沼、それとは知らぬが、雰囲気がある沼を知っている。縁取りも定かでなく、底しれぬ泥沼、蛍が明滅させる仄かな光、鼓動めく、と言いつつ実は自分の鼓動を感じ取っているのだ。闇への恐怖が鼓動に乗り移っているのだ。
廃業を告げ父の墓洗ひけり
万感の思いが込められている。避雷針の設営という極めて専門的なお仕事、手伝っていた作者。お父様を早く亡くされ廃業に至る無念さが胸を打つ。
きつかけは牛舎に落ちし雷一つ
避雷針開発、設置事業の始まりだろうか。
母とゐる今のこのとき冬日濃し
寒さも温さも言っていない。ただ「濃し」と言う。寄り添って、守って、今のこの時を大事にしている気持ちが伝わる。
鮟鱇の皮も残らぬ鍋の底
おいしかった、満腹、満足。言い尽くしている。
春の闇レコード盤の針の音
それがまた聞いているという感じを与えてくれるのです。決して雑音ではないのです。
母節江九十二歳
新樹光母は塗り絵をしてをりぬ
デイケアとかでのお仕事のようです。私の母もやっていました。
刈り取りし小菊束ねて盆の市
娘さんは菊農家。市に出すための作業。結構細やかな仕事だと思います。
高原の星の育てし菊畑
星の見えることを売りにした高原の宿に泊まったことがあります。農作業、気持ちいいことでしょう。菊の栽培には当てる光量が大事と聞きます。星の光の多少も品質に影響するのでしょうか。
小鳥来る母の手を引き美容院
親孝行です。いつまでも綺麗でいてほしい。
ころころところがる子らに桜東風
じゃがたらの花に雨音ありにけり
武士の叫びと聴こゆ不破の滝