加藤節江さんの、句集「風が吹く」を、読ませていただきました。
2023/05/30
十河 智
加藤節江さんの、句集「風が吹く」
をお贈りいただき、読ませていただいた。
窯焼の娘に生まれ美濃の夏
節江さんは、94歳、私からしたら、叔父や叔母と同世代かなと、今はもういない、「あんちゃん」「ねえちゃん」と親しみを込めて呼んでいた彼らとの会話を思い出しながら、この91句を、楽しく読ませていただいた。
よう生きた九十三歳五月晴
本当に、昭和のほぼ全部と平成から令和、ご自分でも本音の「よう生きた」なのだろうなと感動があった。うちの家系の女子は大体八十代前半が寿命、私は幸い一病息災を、検証できるので、頑張って、九十を越えて、「よう生きた。」と自分に言ってみたい。この句に出会って、そう思った。
幾千と田んぼ飛び交ふ蛍かな
今は昔の思い出の景なのだろうか。私の一生の中には、夢にもこんな蛍の景色はない。羨ましい、そして守れなかった自然が悲しい。
学友は置き屋の娘半夏生
この句にはびっくりした。私の生まれた町は、港のある観光都市の歓楽街が近く、うちは米屋だが、隣は芸者置屋で、表は小さいお座敷もあって、旦那衆が楽しむところだった。裏通りには、うちの精米工場と並んで芸者衆の居室が並ぶ棟があった。そこの子は少し歳上だったので、学友ではなかったが、この句が思い出させてくれた。
窯焼の日にはみんなでかき氷
熱い窯周りと、仕事する人たちの様子が、よく伝わる句。
ガチャガチャやボケ老人の行き先は
ガチャガチャが言い得て妙。決まっているのは老人施設という容れ物、どういう扱いになるか、くじ引きと同じ。切実にわかる。
絵付師の見事に描く秋の薔薇
スープ皿ずらりと干され鰯雲
窯元の仕事場、邪魔をしないよう言い渡さてた子供が飽きず眺める職人の手業。
ケアマネのあゆみさん来る小鳥来る
軽やかに世話をしにきてくれるあゆみさん、私もこんな人に当たるかな。
仕事せぬ父は俳諧美濃は冬
年の暮祖父は女と出奔す
俳句はすごく大変な状況をいとも軽く言い尽くす。
七草粥すずなすずしろちと硬い
くすっとなった。覚えがある。
風が吹く庭の紅梅満開に
紅梅は風が吹いても散ったりしない。
春灯や勝手にしやがれ弟よ
悔しさがにじみ出て。
あっぱれと自分を褒めて五月来る
五月は誕生月なのですね。一年一年ご自分を褒めて、朗らかに健康にお過ごしください。