蝉と蛙の鳴くところ

蝉と蛙の鳴くところ

        2024/07/27

        十河 智

 

 手の甲に熱い油を引っ掛けてからもう一月経つが、まだ赤くひりひりする。油は深く火傷するというが本当だった。日に焼けて色素沈着が起きないように、まだ当分包帯で覆っておこうと思う。水仕事は冷し効果があって気持ちよくできるので、幸いなことに、普段の暮らしに支障はない。


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 裏の池を越えたところには古い神社と鎮守の森があって、幹線道路沿いながら、今の時期は、蛙がうるさく鳴いている。今年は少し遅いが蝉も鳴く筈。こういう自然の騒がしさに、自動車の走る音、蛍光灯やクーラーの発する耳障りな雑音、都会の街外れの夏の夜は結構音に溢れている。

 

筍の天ぷら油跳ね被る

包帯の下ひりひりと汗ばみて

流水の冷たきが好し火傷の手

夏の陽や晒さぬやうに焦がさぬやうに

街外れ蝉と蛙の鳴くところ

      

静岡の釜揚げしらす、届きました。

静岡の釜揚げしらす、届きました。

          2024/07/22

          十河 智


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静岡の娘婿からしらす干しが届きました。

今日の晩、ご飯にたっぷりかけていただきます。

野菜はパブリカとアスパラガスを添えて。

 

静岡の釜揚げしらすパブリカと   十河 智

句集を二冊読ませていただきました。

句集を二冊読ませていただきました。

        2024/07/12

        十河 智

 

 ありがたいことに、俳句の縁をもって、句集を贈ってくださる方がいる。 

 最近上梓された、谷口智行句集「海(うみ)山(やま)」、緒方順一句集「鳴鳴(めーめー)」の二句集が同じ日に手元に届いた。

 

谷口智行句集「海(うみ)山(やま)」


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 谷口智行先生はお医者様で、昔先生の出される処方箋が私の薬局に回って来たこともある。後に俳句にぐんぐん惹かれて入り込んだところに、先生のお名前を見つけて、ご縁を感じたことであった。 

 寝屋川にほぼ半世紀住んでいて、海に限らず、水辺は京都や若狭、そして奈良、琵琶湖、鴨川、木津川、大和川など北の方へは若い時は友人と、また子育て中は子供を連れてよく遊びに行ったが、南の紀伊半島へはなかなか足が伸びず、数回団体旅行の一員として、観光バスで行ったことがあるだけである。

 

 海や湖、水にはそれぞれに顔があり、私が育った備讃瀬戸、土佐の太平洋の黒潮、若狭の湾内と日本海、みんな違う。和歌山県の海の暮らし、和歌山県の山の暮らしが、語られている句集である。そこに生まれ育った一人の人生の一コマ一コマを見せてくれる一句一句が、連続写真のように並ぶ句集である。

 

(一鵜一声)

じんるいとけものは同祖星新し

涅槃図に看取りの医をらざりき

 

(山桜)

山滴るかつて村埋め人を埋め

わいらには月夜休みといふがあり

美しき秋の平群に師のいます

 

(波の音)

血の道によろしと寒の鹿食はす

肥後守もて弟と蛙割く

山雀の声医書俳書医書俳書

 

(ところてん)

一湾にたつたひとつの桜貝

父祖の地に従兄が一人橡の花

串本へひみつのところてん買ひに

 

平群まで)

平群まで一本の道山桜

内臓のイラスト描いて夏休

ざうざうと山鳴る夜の注連を綯ふ

 

 

緒方順一句集「鳴鳴(めーめー)」


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 この句集の主人公のうしおくんには何回か会ったことがある。ライトバンに乗せて、うちの近くにある店に餌の干し草を買いに来ていた。おとなしい、思ったより小柄なうしおくん。私も小さい頃、田舎の祖母が山羊を飼っていた思い出があり、懐かしく親近感もあった。しかしまだ戦後の名残で、ヤギは乳を搾り飲むためのものだった。うしおくんのように、家族同様の愛情を掛けられる存在ではなかった。うしおくんは特別で、うしおくんとともにいる緒方さんも幸せそうだった。これからは、梟のはずくちゃん、新しい家族となる驢馬と、末永く楽しい日日を送られますようお祈りしたい。

 

ぶらんこを捨て駆け上がるすべり台

たんぽぽをたんとお食べと山羊放つ

 

亡き山羊が名残の空を駆けてをり

洗濯機がやってきました

洗濯機がやってきました。

        2024/06/28  

        十河 智

 

 洗濯機洗濯機がやってきました。ぴったり入って、満足です。乾燥のときすこし振動が伝わるのが気にはなりますが。洗濯自体はおまかせしておけばいいみたいです。


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溜まっていたものを早速洗ってみました。乾燥後のシワもあまり気にならず、いい乾き方でした。

大満足。

 

蒸し暑き小部屋にでんと洗濯機

わくわくの試し洗いの白きシャツ

ふんわりと木綿皺無く干しあがる   

 

 

洗濯機、買い替え

洗濯機、買い替え

        2024/06/27

        十河 智

 洗濯機が羽根の部分にパンストが絡んで回らなくなった。ネットに入れていたのに抜け出たようだ。修理に来てもらったが、修理不能と言われた。絡まるのは羽根自体が変形しているせいだという。十年以上も前の旧型で部品の備蓄期間を過ぎているという、もう何回も聞いた、こういう時のお定まりのセリフ。若い時は、文句の一つも言ったが、最近はその気力もない。諦めて新しいのに買い換えることにした。上新電機に行った。洗濯機も高い買い物だと改めて思う。二人分をほぼ毎日なので、それほど量はないのだが、売っているものが布団も与えるとかで大型に傾いている。久しぶりにクレジットカードを使った。

 明日配達される。そして天気予報は大雨らしい。うちの玄関は滑りやすい石段、大丈夫かな。

上新電機のあとは少し遠くのジョリパスタへドライブ。なんとなく気分転換。

 

夏の日の回らなくなる洗濯機

夏の雲つくづく高き領収書

梅雨時の搬入大型洗濯機

石段の先は植え込み緑さす

遠出して冷製パスタ雲白し  

「人に歴史あり、事件あり」

「人に歴史あり、事件あり」

        2024/06/21

        十河 智

 

 最近失敗の連続である。一昨日のことである。フライを揚げていた油を容器に移し替えるときに、容器をひっくり返してしまいどうなったかとっさのことで判断がつかなかったが、結果は手の甲に熱い油を被ってしまっていた。流水でかなり曝してから溜めた氷水にも漬けておいたのだが、大きく厚く水膨れを生じて、ひりひり痛い。水膨れのないところも赤く腫れている。水が油の膜で中まで浸透していないとわかる、熱湯や鍋の縁に当たるといういつもの火傷だと、流水で曝してしばらくすると体がぞくっと震えるくらいに冷えてきて、患部の腫れも退き、何事もなかったように、台所仕事を継続できる。今回はいつものようにはならず、水疱が膨れ上がったので、びっくりではあったが、消毒した針で水を抜き、皮を破らないようにして、ガーゼで覆い、包帯を巻いた。洗い物は翌日回し、昨日の朝になった。あとは、覆うガーゼと包帯を変えるだけを続けている。空気に触れてもひりひりしない様なら、そのままにする。そのほうが煩わしくない。


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 転んでも骨を折らないとどこかで書いたが、この手の火傷は、学生時代、製薬会社の技術部時代、たまにあったかと思う。ガラスの実験器具での指先の切り傷も経験した。溶剤の入った成分抽出のための分液ロートは、大きくて重いのだ。化学実験をする現場には必ず救急の場合に駆け込む医師が指定されていた。何か久しぶりの火傷で、色色と思い出されて、人生を振り返ってしまう。こんなことがなければ、もう思い出すこともなかった遠い過去、生きてきた証を噛み締めている。病気をすれば過去の大病を思い出し、こうして怪我をすれば、過去の大怪我を思い出す。何にもない平凡平安な人生といっても、

「人に歴史あり、事件あり」

であったと思う

 自分のことではないが、同じように揚げ物をしていて、油から火が出て、袖口、カーテンへとひろがり、おおごとになった近所の家があった。幸いその人の怪我も火傷程度ですみ、火事も類焼はなく抑えられた。

 まだ買い物にはいけるので、介護や援助まではいらないと思っているが、気をつけて暮らさないとと思うようにはなった。寄る年波を無視してはいけない。自分を知り、自覚して、注意して暮らすようにしたい。年寄り二人の家の自立は、いつかは終わる、それを忘れることなく、日日を繋いでいかなければならない。周りはそんな家ばかりなのである。昔のようには、ご近所が頼りにはならない。社会の仕組みや制度に頼るということになる。一日経たないと娘は来ない。

 揚げ物から火傷、これから先のことを考える良いきっかけとなった。

 

来し方の怪我も病も夏の始

手の甲を覆ふ油膜に夏の水

冷たさの食い入る程に夏の水

見聞の大事小事や蚊を叩く

隣人と火事と見紛ふ大夕焼

水打ちやこれもひとつの危機管理

汗拭ひ隣近所は共に老い

 

     

八十路に入る前となる。

八十路に入る前となる。

        2024/06/11

        十河 智

 

 二・三日前に、玄関先の三段の石段で、久しぶりに転倒した。まあ私は小さい頃から、案外よく転けて、皆から気をつけろと言われてきたのだが、幸い骨折したり大きな怪我をすることなく、擦り傷程度で終わりながら、八十歳近くまで無事でこられた。

 しかしこの歳になると、後が堪える。節節が痛い。二・三日めの今がどうもピークのようだ、立ち上がるのにも、ただでさえゆっくりなのに、かなり苦労する。立って姿勢を整えれば、歩くのは楽に歩けるのだが。もう転ばないようにしないと、これから先はそうも安心してはいられないかもしれないしれない。転けてから寝たきりになったという話は、ほんとによく聞く話なのだ。気をつけないと。

 時時ふと思う、いつまで主婦をやるのだろうと。核家族の末路、とでも言おうか、主人の姉はだいぶ前に独り身となっていたが、ついこの間、娘の近くに引っ越して行った。食事は娘のところに通うようになるらしい。家のように、二人で元気は、とても幸せで喜ばしいことではあるが、私たちの世代は、歳を取って家に籠もりがちになると、どうしても家事をする主婦に負担がかかる。朝昼晩、「またご飯を作らないと。」と言いながら台所に立ち、追いかけるように、「俺には作れんから頼むわ。」と言われる。ときにお惣菜を買ってきたり、ごはん屋と言われるような食堂に行くのだが、味付けが違う、すごくおいしいという満足感が得られない。まだそう思える、まだ買い物にも行ける、だから頑張って自分で作るようにしている。自分の味が合っている。美味しいと言ってくれる相手がいる。

 しかし、これから先、まず運転免許返納を考えるようになるだろうし、それほど長くこの暮らし方が続けられるとは思えないのだが、できるだけ長く二人で気を使わずに暮らしていけたらと願っている。

 

転けてより節節痛む夏落葉

八十路夏主婦を卒業したくなり

これからも二人二匹の真鯵買ふ

予定なき昨日今日明日梅雨に入る

明日あるも将来はなく夏桜