2023年4月初めのこと

2023年4月初めのこと

          2023/04/04

          十河 智

 

 四月に入って、人と会う約束が重なった。全て、香川県高松高校時代の同窓生であるが、関係の濃さはそれぞれである。

 

四月一日

 

 四月一日は、関西在住者の学年同窓会、もう長く年一度大阪福島のホテル阪神でと決めて、続けられている。10人テーブル三卓、30人集まった。和やかに会食した。幹事が言うには、もう77の喜寿、今回を最後にしたいとのことだった。それも仕方あるまい、よくこれだけ集まれたと思うもの。会費の残金の処理の話などあって、一人ずつのご挨拶。この歳なので、皆リタイアしていて、近況と言っても話す事もない。病院通いが話題の中心になっていた。

 一人、気になる友人の欠席があった。少し認知症が出ていると聞いていた。夫婦で同窓生で、ご主人の方は、こういう会には出ない人なのだが、奥さんの病気のこともあるので、幹事さんが電話で様子を聞いてくれていた。通院し、リハビリをしていると報告してくれた。症状に合わせたリハビリの方法があって、認知症も進む速度を抑えられるのだそうだ。最近になって入院できたとのこと、夫婦二人暮らしの片方がこうなったとき、老老介護は大変、入院してもらうのが一番いい。

 

エイプリルフールほんとう今日の同窓会

春は黄のホテル阪神前オブジェ

蜃気楼見てをり友は認知症

仕事無き年寄の顔コート脱ぐ

喜寿なれや同窓会は最終回

 

四月二日

 

 四月二日は、今は東京に住む、部活仲間。ESSで、ドラマをやった仲間。文化祭で、1年のときは裏方、2年では役者になった。

 脚本を自分たちのわかるレベルの英語に引き下げてかきなおしたり、洋モノ衣装を図鑑などで調べて、それらしく、シーツやカーテン、親からの借り物で、仮縫いしたり、紐で縛ったり、工夫した。屋上での発声練習や英語の流暢さの鍛錬も懐かしい。照明も自分たちでやった。自己満足程度の出来栄えだったと思うが、必死で頑張った。

 彼女が大阪に来て宿泊中の大阪帝国ホテルのカフェで会うことにした。もう会ってもそんな思い出話は尽きていて、ただただ元気でいることの確認という歳になった。

 帝国ホテル大阪では、宿泊の彼女が、車寄せに駐車スペースを頼んでおいてくれたので、スムーズに駐車、ホテルのロビーに簡単に入ることができた。一時間あまりの再会を楽しんだ。

 昔の彼女は転勤族のお嬢さんで、私のように土着の田舎者とは輝きが違って見えていた。この度会ってみると、まだ若々しい声で、溌溂、昔通り可愛い笑顔だった。

 東京のお菓子をお土産に貰い、私はちょうど弟から送られてきた、インバウンドの外国人用の栗林公園の紹介写真集を贈った。

 誇らしい郷土の名園なのだ。高松の弟の家に行けばに見せてもらえるだろうし、何よりもその本が見事な出来栄えで、栗林公園の魅力を存分に伝えていたので、東京で身近な知り合いに見せてほしいと思ったのだ。私はこの本を何度も読み返していたし、一冊しかなかったが、お土産とするのに躊躇はなかった。英語は、不自由ない彼女だから、説明も問題なく読める。(見えるか見えないかの極小ポイントの活字で日本語の説明もあるにはある。)

 弟は、そのことを電話で伝えると、「せっかくお姉ちゃんにと、頼んで手に入れたのに。」と、ほんの少し不満げな声だった。彼女が喜んでくれたのが何よりだった。後悔はない。

 

桜咲く昔拙き英語劇

入学す東京弁の同級生

栗林公園桜の庭を照らし出す

川朧贈呈写真集重し

東京の銘菓と紅茶春障子

 

四月三日

 

 四月三日、女子会八人組が伏見桃山城へ花見ということで出かけることにした。お世話してくれる人がいて、お昼を一緒に食べることになり、京阪伏見桃山駅を降りて、マツモトキヨシの前で、集合した。伏見は明治維新前夜の戦跡である。その少し硬く重苦しい空気が、駅を降り立つとすぐ、花見の華やかさの前に感じられるのだ。

 会席の店はすぐ近くだった。椅子席だが、靴を脱いで上がる店だった。みんなすぐに店に入り、あまり桜には興味がない様だった。桜を見るには少し歩かなければならず、久しぶりの女子会は、やはりおしゃべりと美味しい食事なのだ。

 店の人が料理について説明してくれた。少しずつ色々な料理を出してくれた。少食になっている私も、すべて食べることができた。追加でカレーライスはどうですかといわれたが、それはやめておいた。だがあとに出てきたものは、小皿に2さじ程度の量で、頼んでも良かったなと、少し後悔した。こういう所は、初めて来ることが多く、量や味の予想がつきにくい。今回は美味しい料理で大満足であった。私は結局花見はせず、お昼を終えるとすぐに帰路についた。

 京阪電車株主優待乗車券、これはもう、いずれ子供のいる静岡へ行くつもりで、株券を手放したので、今期が最後になる。よく利用させてもらったなと、切符の口に呑み込ませる。勢いよく向こう側に飛び出してきて、受け取ってホームへ入る。まだ明るい春の日差しが心地よい。寝屋川まで、また沿線の家の隙間の桜を見つつ、各停で帰った。

 

気怠きや桜吹雪に歩み止め

春暑し伏見に戦ありにけり

電車よりそこいら中のさくらかな

伏見桃山京阪に乗り花の川

春の膳友の元気を知れば良し

 

 寝屋川市駅に着くとほっとする。植え込みの周りが石のベンチになっている。鳩が来る。とぼとぼとゆっくり歩いては、そういうところに座って一休みして帰る。いつも通り、座っていると、選挙演説が始まった。選挙に行く気が湧かず、いつあるのかも知らず、まして候補者の名前も知らない。ただ樟の緑が鮮やかになってきているなと、バスに乗り込む前に、駅の植え込みの大樹を見上げていた。定期売り場に長い行列があった。

 

駅前のベンチやのどか鳩が来る

鳩も聴く選挙演説樟新芽

大楠や定期に並ぶ新社員