歌代美遥さんの句集「月の梯子」を読みました。

歌代美遥さんの句集「月の梯子」を読みました。

        2022/10/16

        十河 智


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歌代美遥さんの句集「月の梯子」を読みました。

 

寒風に月の梯子の架かりけり

 表題に取られた句。寒風が、まず状況をあきらかにする。身を縮こませて震えながら歩いている。月が一条の光を投げかけてくる。それを「月の梯子」、月と地球を行き来できる梯子と受け取ったのだ。大気圏には寒風、そこから逃れられる梯子である。

 月への憧れはかぐやの物語以来のものであり、人類の果てしない希望とも受け取ることができる。

 

 私よりもほんの少しお若いのだが、老いということ、死ということが、やはりテーマとなって現れる俳句も目にとまり、胸に迫ってきました。

 また、訪れた所、立ち止まった刻、外界の描写の上にほんの少し思いを込めて句が出来上がっているように思われました。どの一句にも美遥さんの優しく暖かな視線が感じられるのです。 

 

黙祷

 

行年の不詳がよろし初句会

(ほんと、どうでもよろしいわ、齢なんて。)

 

伊豆駅を降り細雪横滑り

(少し明るい雪催いと感じた。)

 

雪吊の名木雨に匂ふなり

金沢駅近くでみた雪吊を施した木を思い浮かべました。)

 

日の落ちて雪の浅間の裏思ふ

(えっと考えて、なるほどと。)

 

寒風に月の梯子の架かりけり

 

自浄

 

高床に大臼干され梅日和

(寒の餅の準備だろうか)

 

梅茶屋に造り小流あり岩も

(由緒ある庭園の一角の茶屋かと。)

 

ダンス多きインド映画や牡丹雪

(インド映画、ごく最近のものはそうでもないですが、昔見たものはたしかにそうでした。)

 

春一番肩剃りて肩描き足して

(肩の線というのは、人格までも表す大事な線で、苦労するのですね。)

 

追ふやうにまた追ふやうに落椿

(この落ちるところも、落ちた椿もまたきれいなのです。)

 

いつか返さう初キスと春帽と 

(どういう心境なのでしょうか、この恋は進展すると信じています。)

 

野に遊ぶ人妻でなく主婦でなく

(娘に帰るのでしょうね。)

 

耳栓をして死の気分桜の芽

(歳を取れば、経験しておきたい気分かも。硬い桜のメモ連想させたのでしょう耳栓を。)

 

逢へばすぐ『御意』の話や花衣

(俳句の仲間の出した句集『御意』、その話題で花見の句会が盛り上がるのです。)

 

指で読む与謝野晶子碑花衣

(石碑の掘られた字、指で触るとか、やりますね。お花見の名所に立つ碑ですね。)

 

嘴太の人の道具で巣を作る

(たしかにうちも針金ハンガー取られました。竹藪の巣に組み込まれていました。)

 

晩春の野に手を広げ抱く準備

(まず私だと孫が走って寄ってきている、だがここは恋人同士と想像しても楽しい。)

 

 

存分

 

ばかに長きフェイク睫毛や花は葉に

(花が葉に変わる頃、視線が人の睫毛に移る。)

 

一人居の母へ日帰りさくらん

さくらんぼを持ってゆくだけ、どうしても届けたかったので日帰り。気持ちがわかる母。)

 

奈々奈々と奈々を呼び捨て蒸鮑

(可愛くて仕方がない存在の、奈々。お酒をともに飲んでいるのだろう。)

 

山口百恵を知らぬ世代や赤茄子喰ふ

山口百恵といえば、赤いシリーズ。知っている世代は思い出す。)

 

ねぢ花を残す庭師の手作業の

(この庭師はいい。うちの庭師は何度言っても捩花をもぎ取る。)

 

炎昼に暫く立ちて少し老ゆ

(この感覚良くわかります。)

 

 

直線

 

ねぶた往く道あり帰る道もあり

(きちんと計画されて、しかも毎年のこととして、行く道も帰る道もあるのだ。この句は割と奥行きがある。)

 

稲を刈る助太刀といふ漁師来る

(親類か友達か、有難いことだ。普段違う職の人が助太刀というのはありそうな自然なこと。)

 

 

世界

 

吊されて老けるがよけれ大根干す

(真理でもあり、我が身に重ねて哀れも感じた。)

 

全世界見渡してをり炬燵から

(衛星テレビでワールドニュースを見ることができる時代なのだ。)