森賀まりさんの句集「しみずあたたかをふくむ」(ふらんす堂)を読みました。
2022/05/03
十河 智
森賀まりさんより、
森賀まりさんの句集
「しみずあたたかをふくむ」(ふらんす堂)
をお贈りいただき、読ませていただきました。
装幀も、ページのレイアウトの仕様も簡素の中にも落ち着き、安堵の気持ちを持たせて貰える。
本の題名「しみずあたたかをふくむ」という時候の頃の裸木を題名の上に配し、まるでこの木がその清水を春に向かって吸い上げていくようだ。見返しの臙脂色が素敵だ。「しみずあたたかをふくむ」土にも感じられる。
まりさんの俳句には、素直な目や気持ちが現れる。
はんざきのどさりと抛りたるごとし
友の葬遠くはじまる春霞 森賀まり
各章ごとに印象に残る句を挙げさせていただく。
Ⅰ
炬燵より花鉢の水たのみけり
さくらんぼ真赤な方をくれにけり
真二つにまた真二つに紅蕪 森賀まり
(打ち解けた家族の円満な暮らしの様子が見えてくる。)
Ⅱ
火に遅れ火を追ひたてて草を焼く 森賀まり
(野焼きの気の抜けない緊張が走るタイミングの取りようですね。その場の雰囲気が伝わります。)
春の蚊や八坂の塔のぼんやりと 森賀まり
(塔から、蝶もでますが、夕方の薄明かりのとき蚊が出てきたところ。塔もぼんやり、蚊の音だけが聞こえてきます。)
鉾を解く人の往き来が空にあり 森賀まり
(祭りの後始末、背の高い鉾を中空で手際よく。見ていて飽きません。)
夏落葉足音の無き人とゐる 森賀まり
(そういう人といると気を使います。静かになるべく音なく歩かなくては。でもどちらが落ち葉を味わえるでしょうか。)
かなへびの胸どきどきとしてゐたる 森賀まり
(息をしているのか、心臓の動きなのか。見る方にある胸どきどきをかなへび
のそれに託して)
一等地とは冬ざれのひとところ 森賀まり
(面白い。高い土地は案外売れないで残る。そこが一等地のことが多い。)
Ⅲ
こなごなに蜜柑を剝いてくれたりき 森賀まり
(こどもか孫でしょう。嬉しそうな笑顔になっていることでしょう。)
セーターの毛玉仕方のなき人よ 森賀まり
(毛玉をすき取るのは案外手間ですが、やらなくてはと思います。でもこの句は、優しく、「仕方のない人ね」と見てあげていますね、包み込んであげてますね。)
夏蓬真白でもなき白を着る 森賀まり
(夏蓬の葉裏の白も共通する。センスだとも言える色の選択。)
Ⅳ
冬枯れの階段は鉄ひびきけり 森賀まり
(鉄階段、音が嫌というほど、ほんとに響きます。)
灸花聞こえざるときわれを見る 森賀まり
(私も耳が聞こえにくいので、相手を見ますね。そのほうが聞こえる気がします。)
年寄りに数へられゐてうららけし 森賀まり
(もう大昔、初めておばさんと呼ばれ、お婆さんと呼ばれ、全て覚えていますね。笑えました、この句。)
夏落葉水飲んでゐる待ち時間 森賀まり
(水を持つのは必須になりました。落葉だから、まだ開場前のコンサートかな。)
ナカバヤシアルバムの嵩冬来る 森賀まり
(アルバムはナカバヤシのフエルアルバムですうちも)
Ⅴ
エスカレーター長きにひとり春の雷 森賀まり
(ただただ長い、そこに一人という寂しさ。)
菊人形夕日をながく見てありぬ 森賀まり
(夕日の美しさの中に気づけば長くいた感動。)
秋の水映画に長き掉尾あり 森賀まり
(秋の水は映画の場面内だろうか、それとも手元の飲み物だろうか、最後の場面が少し長く感じる)