森賀まりさんの句集「しみずあたたかをふくむ」(ふらんす堂)を読みました。

森賀まりさんの句集「しみずあたたかをふくむ」(ふらんす堂)を読みました。

        2022/05/03

        十河 智

 

 森賀まりさんより、

森賀まりさんの句集

「しみずあたたかをふくむ」(ふらんす堂

をお贈りいただき、読ませていただきました。


f:id:haikusumomochan:20220503152301j:image


f:id:haikusumomochan:20220503152420j:image

 

 装幀も、ページのレイアウトの仕様も簡素の中にも落ち着き、安堵の気持ちを持たせて貰える。

 本の題名「しみずあたたかをふくむ」という時候の頃の裸木を題名の上に配し、まるでこの木がその清水を春に向かって吸い上げていくようだ。見返しの臙脂色が素敵だ。「しみずあたたかをふくむ」土にも感じられる。

 

 

まりさんの俳句には、素直な目や気持ちが現れる。

 

はんざきのどさりと抛りたるごとし

友の葬遠くはじまる春霞  森賀まり

 

各章ごとに印象に残る句を挙げさせていただく。

 

 

炬燵より花鉢の水たのみけり

さくらんぼ真赤な方をくれにけり

真二つにまた真二つに紅蕪  森賀まり

 

(打ち解けた家族の円満な暮らしの様子が見えてくる。)

 

 

火に遅れ火を追ひたてて草を焼く  森賀まり

(野焼きの気の抜けない緊張が走るタイミングの取りようですね。その場の雰囲気が伝わります。)

 

春の蚊や八坂の塔のぼんやりと  森賀まり

(塔から、蝶もでますが、夕方の薄明かりのとき蚊が出てきたところ。塔もぼんやり、蚊の音だけが聞こえてきます。)

 

鉾を解く人の往き来が空にあり  森賀まり

(祭りの後始末、背の高い鉾を中空で手際よく。見ていて飽きません。)

 

夏落葉足音の無き人とゐる  森賀まり

(そういう人といると気を使います。静かになるべく音なく歩かなくては。でもどちらが落ち葉を味わえるでしょうか。)

 

かなへびの胸どきどきとしてゐたる  森賀まり

(息をしているのか、心臓の動きなのか。見る方にある胸どきどきをかなへび

のそれに託して)

 

一等地とは冬ざれのひとところ  森賀まり

(面白い。高い土地は案外売れないで残る。そこが一等地のことが多い。)

 

 

こなごなに蜜柑を剝いてくれたりき  森賀まり

(こどもか孫でしょう。嬉しそうな笑顔になっていることでしょう。)

 

セーターの毛玉仕方のなき人よ  森賀まり

(毛玉をすき取るのは案外手間ですが、やらなくてはと思います。でもこの句は、優しく、「仕方のない人ね」と見てあげていますね、包み込んであげてますね。)

 

夏蓬真白でもなき白を着る  森賀まり

(夏蓬の葉裏の白も共通する。センスだとも言える色の選択。)

 

 

 

冬枯れの階段は鉄ひびきけり  森賀まり

(鉄階段、音が嫌というほど、ほんとに響きます。)

 

灸花聞こえざるときわれを見る  森賀まり

(私も耳が聞こえにくいので、相手を見ますね。そのほうが聞こえる気がします。)

 

年寄りに数へられゐてうららけし  森賀まり

(もう大昔、初めておばさんと呼ばれ、お婆さんと呼ばれ、全て覚えていますね。笑えました、この句。)

 

夏落葉水飲んでゐる待ち時間  森賀まり

(水を持つのは必須になりました。落葉だから、まだ開場前のコンサートかな。)

 

ナカバヤシアルバムの嵩冬来る  森賀まり

(アルバムはナカバヤシのフエルアルバムですうちも)

 

 

 

エスカレーター長きにひとり春の雷  森賀まり

(ただただ長い、そこに一人という寂しさ。)

 

菊人形夕日をながく見てありぬ  森賀まり

(夕日の美しさの中に気づけば長くいた感動。)

 

秋の水映画に長き掉尾あり  森賀まり

(秋の水は映画の場面内だろうか、それとも手元の飲み物だろうか、最後の場面が少し長く感じる)