岡田耕始さんの句集
「使命」を読みました。
2022/02/13
十河 智
岡田耕始さんより句集「使命」をお贈りいただきました。
先生の御句は、フェイスブック上に毎日揚げておられ、読ませていただいておりました。
この句集におさめられて、1頁2句のレイアウトで声を出して読みますと、懐かしい句、耳に覚えのある句、新鮮味を持ってまた見た句、様様で、句の表情や扱う題材の幅広さを思います。
まず、教員を要請する大学の教授であられること。家庭人としての俳句もありました。お酒を好まれ、そのお付き合いがほの見える句も多いように思います。結社の代表、俳人として、精進を重ねた俳句もあります。
帯文に、久保純夫さんの書かれている「緻密な知識人」まさにその通りの方だと思います。
2015−2016
天辺は青チベットの冬帽子
裏返るお好み焼きの桜蝦
夕立の自転車キュッと到着す
砂丘の秋小さな人になりに来る
蟋蟀とおなじ車輌に
乗ってゆく
地虫鳴く国立国語研究所
二学期のええやんあんたそのままで
ガレージの暮らしが見える年の夜
2017年
大寒の学校中を開きけり
着信や春セーターの胸に点く
灯をともす青葉の中のサキソフォン
カレーパンゆっくり食べる夜学かな
姥捨の何処の水も澄みにけり
冬に入る三百を超す非常ベル
付箋紙が夏の図鑑を膨らます
六林男忌の骨が地面を叩きけり
ちちはは✥2018
仕付糸切りて白衣をまといけり
春の風邪自分で治すことにする
春日影健次の鉄路むき出しに
青鷺のいつから我を見ておりぬ
たたかいの始まっている夏布団
一円も使わない日の扇風機
北面のことに涼しき涅槃像
ひやおろしなあんとなんと返盃す
ちちははのもうやってくる十二月
台風の中を燃え出す駅舎かな
元号✥2019
ポケットをたのしむ深さ春コート
元号を使わぬ人の蜆汁
手から手へ渡り零れてゆくラムネ
若松を老松に替え秋灯
圏外となりし九月の森のこと
命✥2020
年の豆良い方の歯を鳴らしたり
春菊を摘んでそのまま食べにけり
始まらぬ学校に来て雀の子
麦秋のどこにも触れず戻りけり
いつ死ぬかわからぬほどの大夕焼
こんなにも話すことある月今宵
当事者の一人となりて月を待つ
息白く命の話していたる
数え日の濃厚接触者の一人
初氷命の音を交わしけり
柔らかな言葉で、優しい気持がにじみ出ているように感じました。人との繋がりを大事に、この社会はまだまだ大丈夫と励まされました。