佐保姫に会いに行きます。 2019/04/07

佐保姫に会いに行きます。 2019/04/07

 佐保川を堤の桜がこの日こそ満開だろうと、混むかもしれない土曜日だったが、行くことにした。
 桜の前に奈良の端っこ、登美ヶ丘に住む人と会わなければならなかった。
 鳴門時代の同僚で、また、佐保川堤の桜の見事さを最初に教えてくれた人でもある。
 三月末に、突然電話があった。地下駐車場で事故を起こし、快復したが、リハビリ中という。電話の声はいつも通りだが、ただ自分に衝撃を全て受けるような事故であったらしく、容易ならざる事態であったようだ。人を巻き込まない自損事故だった、それはよかった、と言っていた。そのときに、もうすぐ桜が咲くので、会いに行くと約束していたのだ。
 彼女の家近くの新しい人気のカフェで待ち合わせた。着いたと電話を入れると、元気にやって来た。安心した。
 このところの車のない生活を教えてくれた。電動自転車は運転中に充電するタイプの電池を積んでいるもので長持ちするものを選んだという。買い物は、近くのスーパーにネットで朝頼むと夕方には配達してくれる。配達料一ヶ月いくらの契約だそうで、買い物に行くのと変わらず、便利だそう。気に入りのシステムらしく勧めてくれるのだが、買い物だけが外出の機会のわが家には向かない。
 この前鳴門で会った友人のこと、鳴門や徳島の現在の話をしてあげると、思い切り昔話に突入した。昔住んでいた寮やアパート、遊んだ海や山、阿波おどり。一生のうちのほんの2、3年なのに、エネルギッシュで愉しい時を共有していた。
 笑って小一時間ほど喋って、隣で一人で退屈そうな主人が気になり、主目的の佐保川の花見に向かうことにした。友人は駐車場で出るまで見送ってくれた。

人来鳥鳴門に住まふ人のこと
大事故の顛末桜時会はむ
陽炎や一度死にたる身と言ひぬ
佐保姫や変はらず優雅しなやかに
のどけしや運転免許返納後
清明の電動自転車優れもの
寸陰のともに渦潮観し暮し
肝臓と骨自然治癒待ちて春
また何時と言はぬさよなら春の風    十河智

 毎年楽しむ佐保川堤の桜、年によって、行き合う桜の状態は違う。ここは、圧倒的に桜の木が多く、延延と続く桜並木は、どのような場面も美しい。今年は満開の時に行くことができた。
 最近の京都での歩き疲れが体に残っていて、堤を車で走るだけの花見であったが、華やかで、とても美しかった。写真と俳句に残しておこう。
 この圧巻の桜を見た後は、帰途の沿道や公園の桜並木は、ひ弱で物足りなく感じていた。

佐保姫に会ひに来しかな満ち足りて
ただ岸に桜絢爛豪華なる
ゆるゆると動く車列や花の雲
桜堤歩む走るはそれぞれに
佐保川を離れ若木の桜道     十河智