シリーズ自句自解Ⅱベスト100 山口昭男(ふらんす堂)を読みました。

シリーズ自句自解Ⅱベスト100 山口昭男(ふらんす堂)を読みました。

         2020/01/27

         十河智

    

 山口昭男さんは、田中裕明主宰の俳誌「ゆう」の編集長であった方。波多野爽波の「青」にも参加されていた。

「ゆう」の初めから終刊までのことを含む、ご自分の俳句作りを振り返り、人生を重ね合わせながら、どのように作ってきたかを率直に語っておられる。

 俳句は、人生を投影する。仕事や家族、俳句の環境、その時時の思いを正直に話に混じえながら、一句一句がどのようにできたかを、述懐しておられる。

 山口さんの句集「木簡」を読ませていただいた時、「ゆう」での句とかなり感じが変わったなと思ったのですが、この本を読むと、そんなことも成り行きかなあ、とわかってくるのです。

 何か目指すことを固定せず、しかし何かに挑戦したり、新しい試みをしてみる。できないときには待つ。そして、この本には、試みて、待ちに待って、できてきた俳句の成果集にもなっている。

 字数の制限の中で、日記のように、要点を外さず、経緯を語り、動機を語り、どこを目指したかを語る。
 「こんな俳句を作ってみたかった。」
 「この季語を使った俳句を作りたい。」
 裕明さんや爽波さんが意識された句もある。
 偶然にできた句もその偶然が俳句のでき方と認めている。 
 
 一行17音、一人の俳人の作る俳句にも、多様な出来上がる道筋があると、教えてくれている。全ての俳句を作る人たちは、この本を読むと、自分たちの日々の煩悶が、普通だとわかって安心するだろう。色々考えて作ってみることは自然のことだと、冒険もしていいんだと安心するだろう。

 結果として、認められた、そんな句は、とても素直に嬉しいと書いておられる。冒険が成功したと、喜んでおられる句も、結構たくさんある。
 こんなことも、一般に俳句を作り、発表する人たちは、共感するところである。どう受け止められるか、やはり大事である。褒めてもらえることは嬉しい。

最後にまとめられた
「私が大事にしている三つのこと」

1 季語(季語を予め想定しておいて、実作は心のままに。季語が定まらないときは例句から学ぶ。)

2 定型(定型を守ることでリズムが生まれる。気持ち良い。最終的には音読することにより決める。)

3 切れ(作った人の思いが伝わってゆくのは、切れがあるから。)

そして、

4 もう一つのこと(爽波、裕明をいつも身近に置いておくこと。新しい二人の魅力が、まだまだ発見されて、そのわくわく感が俳句作りを助けてくれる。)

普通に俳句を楽しんでいる私にも、冒険心と勇気を持たせてくれる導きの書であった。

大阪府学校保健・安全研究会が中の島の中央公会堂でありました。

大阪府学校保健・安全研究会が中の島の中央公会堂でありました。

          2020/01/25

          十河智

 

歯のスポーツ外傷へのファースト・エイドについて聴いてきました。

大阪府学校保健・安全研究会が中の島の中央公会堂でありました。
 今年は歯科の先生の講演で、「学校での歯の外傷とその対応」という話題で、孫が野球をしていて、個人的な関心から聴きに行くことにしました。
 ただ年に何回かしか訪問しない保健室で、結構顔面を怪我する児童生徒がいることも、理解しています。また転けたり、何かにぶつかって歯が折れたという話もよく聞きます。役に立つ情報を得られそうでした。
 小学生、中学生、高校生からの研究発表の後、大阪歯科大学、歯科保存学講座 准教授 吉川一志先生の講演が始まりました。

1 歯の保存液の常備
 学校での「歯牙障害」の比率は高く、中・高生は部活動などでの外傷によることが多い。
 折れたり、脱落した歯は、「歯の保存液」に、そのまま入れて、病院に持参することを強く勧められた。大阪歯科大学では、全国の学校やスポーツの現場に、この保存液を置くように働きかけをしており、高校野球では、出場校に毎年配布しているという。ただ、まだ道半ばで、全国的に周知されている状況にはないので、さらに推進してゆく、と次のような課題を述べられた。

活用への課題
・ 脱落歯の取り扱いを知っていただく

 1 歯根部を触らない。
 2 脱落歯を水洗せず、すぐにボトルに浸漬する。
 3 歯科医院に輸送。(すぐに輸送できない時は、保存は4℃で行う。)

 注意することは、水道水では絶対洗わないことと乾いた状態にしないこと。保存液がなく、牛乳で代用して、後の治療に成功した事例を紹介された。

・ 受傷現場での歯の保存液の常備

 現在、全国の小・中学校、高等学校への常備を目指している。

2 マウスガードについて

 マウスガードの装着は、口腔内外傷の予防になるので、コンタクトスポーツでは一般に認知されている。これをすべてのスポーツへ浸透させる試みやアンケートが実施されている。装着が競技に不都合な場合もあり、慎重な議論が必要。
 またマウスピースは作成に当たり、個々に適正な調整が必要で、インターネットなどでの手軽な調整の伴わない入手は避けるべきとの注意もされた。

3 スポーツドリンクのpHと糖分含量、虫歯に注意。

スポーツドリンクは熱中症対策には必要、しかし水も用意しておき、口中を洗うこと。
 

帰りに歩いた、冬の暮の中の島は、灯りがつき始めて、ほの暖かく、きれいでした。大江橋駅のイタリアンのお店で、歯には良くない、甘いケーキとロイヤルミルクティのセットで息抜きしてから帰りました。やはり吟行めいてきました。

 

歯の折れるスポーツ多し春隣
歯を探す野球少年空っ風
スケボーの始めの一段寒烏
凍ててをり薔薇園には降り行かず
冬の灯にカフェ浮き上がる中の島
中の島川のテラスの温風機 

「新春コンサート 古澤巌 with はたけやま裕バンド」に行きました。

コープシアターの例会、「新春コンサート 古澤巌 with はたけやま裕バンド」に行きました。

          2020/01/24

          十河智

大阪いずみホールで、コープシアターの例会、「新春コンサート 古澤巌 with はたけやま裕バンド」を聴いた。
 午後一時からの会場であったが、私は朝に出て、用事をすませてから、タクシーで回った。
 お昼は同じグループの人達と一緒にというはずだったが、誰も携帯に出てくれず、一人。その辺ですませた。まあこういうときは、おしゃべり夢中だったり、雑踏の騒音で、出ないというのがおばちゃんグループでは普通かもしれない。
 会場は開演間際であったが、大きく真ん中が空席であった。早く出かけていたので、知らなかったのだが、ちょっと前に京阪電車の駅で、人身事故があり、止まっているらしかった。つい先日もあったし、最近多いような気がする。スマホかな?私達の連れの一人も、まだ来ていない。JRで迂回すると言ってきた。
 公演は、15分開始を遅らせるとアナウンスされた。コープシアターという身内の例会のためか、出演者の配慮なのか。ありがたいと思っていたら、古澤巌さんが舞台に出て来て、退屈でしょうからと、プログラムとは別に、弾いてくださった。後でバンドも加わり、アンコールの先取りと思っていたら、きっちり最後にアンコールにも応えてくれた。
 舞台上は4人なのだが、ピアノと打楽器がセットされて、いつものいずみホールとは違う雰囲気だった。席も今回は前の方で、舞台と高低差が少なく感じられ、ライブハウスのようだった。
 バイオリンもパーカッションも聞かせ場、見せ場があって、引き寄せられた。「バロックだ、ロックだ。」などと何回か古澤さんが言っていたが、私についていけるくらいの激しさだった。
 はたけやま裕さんは、初めてだったが、すごく精力的に動くパフォーマンスで、凄いと思った。おしゃれな白黒大柄のニッカーボッカーズが斬新で、パフォーマンスによく合っていた。
 古澤巌さんの衣装も長めの上衣をゆったり羽織り、ブランド物のスカーフらしき柔らかい布をだらりとバイオリンに乗せ顎に当てる。初老の気怠ささえ見える話し方で、鯱張らない。会場にはそれ以上の平均年齢の聴衆である。舞台との境界線が薄められていることに安心する。
 ところが、ひとたびバイオリンが響き、打つ音が轟き始めると、音楽だけの世界になる。演奏者の姿が消え、バイオリン、パーカッション、ベース、ピアノが、音のまま踊りだす。気持ちがいい。
 終演後、ロビーで、お二人のCDを買った。CDで、また違う趣の演奏を聴いた。生で聴く迫力には及ばないが、完璧さを追求していることがよくわかった。
 生きていると、行きたくなる、買いたくなるものだと、つくづく思う。歳を取ったと言いながら、コープシアターも惰性で辞められずに続いている。そして惰性で行きあった場所で、このように刺激を受けて、多分エネルギーを注入されているのだ。
 いずみホールから京橋までの風が吹き抜ける長い連絡橋の途中で、息苦しくなり、連れに遅れを取った。吸入薬を取出し、調子を整えて、電話してみるが、また出てくれない。改札口の前まで来ると、待ってくれていて、携帯の電源を入れていた。会場で切ったままだったのだ。全員が。椅子のある場所まで来て、復元開始だったようだ。
 京阪電車は動いていた。寝屋川市駅まで帰り、割引券の使えるいつものところで、ホットコーヒーを一緒に飲んで、それぞれの方向に別れた。
 

事故遅延客待つ大寒コンサート
冬暖か待つ間を埋めるニ・三曲
名手弾く名器であらむ冬月光
重ね着に顎当て布が少し派手
ニッカーボッカーズ着て颯爽と雪の精
二十日正月パーカッションとして拍手
華やかに跳ねて打つ女(ひと)冬の薔薇
冬の暮CD二枚抱き帰る
凍て川の上なる連絡通路かな
大寒や発作の止まずありにけり
寒風や電源切りしままスマホ
冬の駅ベンチある場所知つてをり
コーヒーを割引券で底冷えす 

句帖を拾ふ(2019/12)

句帖を拾ふ(2019/12)

1
寒し
cold

寒しとふドアの開閉にも文句
"Don"t bring in the cold air! ";
a grumbler at me to open and close the door
寒きかな窓の外見て老夫婦
so cold;
the elderly couple say with each other looking out of the window

2
冴ゆる
clear
月冴ゆる生死の際に人のゐて
a person hovering on the verge of death;
a clear moon
冴ゆる夜やいづれ夜深し不眠症
a clear night;
both of the persons of wakefulness and of sleeplessness

3
冬の空
winter sky
冬の空珠に思ふは父のこと
winter sky;
I soometimes reminisce about my dead father
冬空に羽ばたくものや景静か
a still and quiet landscape;
the one flapping its wings in the winter sky

4
どんぐりと落葉下鴨神社より  十河智
from the woods of Shimogamo Shrine to the outside;
acorns and fallen leaves SOGO Tomoko

京都の下鴨本通を歩きました。下鴨神社の縁には落ち葉とどんぐりが吹き溜まっていて、歩きにくい程でした。

5
波の花
foam of the wave
能登に来て見ずや咲かずや波の花
not a look and not a scattering of the foam of the waves;
on the tip of the Noto Peninsula
波の花佐渡の切り立つ崖に咲く
foam of the wave;
the waves hitting to the bluff of Sado and broking into spray

6
冬の虹
winter rainbow
冬の虹野中を歩き見上ぐれば
walking in a field and looking up at the sky;
winter rainbow
冬の虹おおきく一つ深呼吸
winter rainbow;
spreading my arms wide for a deep breath

6
しづり
snow falling from a tree
朝ぼらけ夫の任地の垂(しづ)り雪
snow falling from trees;
in the dawn at the place my husband-alone transferred
ふわと透け笹より垂(しづ)る刻満ちぬ
fruffy transparency has grown enough;
the snow is just falling from a bamboo leaves

7
冬の霧
winter fog
冬の霧山また山に前途消ゆ
winter fog;
missing my way for destination in the mountains
冬の霧父の危篤を急ぐ時
winter fog;
the time when l was hurrying to my father's deathbed

8
それぞれに三都を飾る冬の灯よ  十河智
the three urban lights in winter;
Kobe the earthquake memorial, Osaka the water in focus, and Kyoto the red maples of temple gardens SOGO Tomoko

冬の灯も、最近は趣が変わってきたようである。

9
「綿虫」
綿虫や三千院へ道すがら
綿虫を拳に掴み事も無げ
別名の多き綿虫地方色

10
「霜柱」
山科に住みて久しき霜柱
霜柱大原のまだ奥があり[入選]
霜柱鹿ヶ谷より真如堂

11
ポインセチア
ポインセチア天満橋でも寝屋川も
花屋バクヤード百個のポインセチア
四時間の研修終へしポインセチア

12
マイケルの「ママがサンタにキスをした」  十河智
"I saw mommy kissing Santa Claus ", coming from radio;
the voice of Michael in Jackson's 5 SOGOTomoko

「サンタクロースが町にやって来た」唄ふ小さき外国人  十河智
"Santa Claus is coming to town", being played in the mall;
a young foreign boy is crooning the song SOGO Tomoko

ここのところラジオはクリスマスソング特集ばかり。ありとあらゆるジャンルのクリスマスソングを聴いた。街にも軽快に、静かにクリスマスソングが流れている。時にはつられて口遊む

13
冬の月
winter moon

部屋飼ひの猫が見てゐる冬の月
winter moon;
a good look of a cat kept within a room
湯屋出でて妻を待つとき冬の月
waiting my wife to come out from public bath;
winter moon

14
冬の星
winter stars

冬の星散歩の人ら声高く
winter stars;
the loud voices of strolling people
我孤独瞬き合へる冬の星
my loneliness;
all the winter stars are twinkling

15
オリオン
Orion

オリオンや護られている心地して
Orion;
I feel like I have a guard
オリオンの変わらぬ勇姿我老いぬ
a strong Orion hasn"t changed over time;
an old person l am

16
吹雪
snow storm

身を覆うもの翻し吹雪往く
the advance;
making the body cover billow in the snow storm
南国に育ち吹雪の実知らず
no knowledge about the real snow storm;
being raised in the south

17
北風
north wind

北風や高さ制限ある京都
north wind;
Kyoto City has the limit on the building height
北風の荒びリア王彷徨ふ野
a stomy north wind;
the wilderness King Lear wandered

18
初時雨
first light rain

初時雨ホームシックに陥りて
first light rain;
getting homesick
三畳一間一人の窓や初時雨
alone in a cramped tatami room;
first light rain from the window

18
「数へ日」

数へ日や高速道路スムーズで
数へ日のハンバーグ店満席に
数へ日の慌しさ無く旅に出る 
 
19
晦日
New Year’ Eve

晦日シンガポールの夜は更けて
New Year"s Eve;
a night view of Singapore

外国の英語のニュース大晦日
the English news on TV in foreign country;
New Year"s Eve

最近の二冊

最近の二冊

          2019/12/28

          十河智

 最近、読んだ本である。どちらも、SNS上で眼に留まり、ジュンク堂書店のネット販売で手に入れた。翌日には届いた。どちらも思ったよりは内容が浅かったが、考えを深める端緒や、新たな情報を提供してくれるものとしては、良い本になった。

一「本土空襲全記録」NHKスペシャル取材班、KADOKAWA 

 私にとっては、永久保存版のデーターである。意見や主張、論議はほとんど見当たらないが、どうしてこういう本が今までなかったのだろうかと思っていたのだ。
 断片的に被災者の言葉として語られたり、ある都市の記録としてはあっても、日本が持たないデータであった為だろうか、全体の犠牲者の大きさを把握できるような書物にであったことはない。
 残念なことに、高松のことは地図上の点でしか表されてないが、こんなにも広範囲に多くの犠牲者がいたのかと、それを、戦争を知らない世代が知ることは、意味がある。
 戦争は恐ろしい。勝ちも負けもなく、罪業である。米兵が、その時と、戦後と、時々の気持ちを語っているのは、本当のところだろう。戦争は起こしてはいけないのだ。起きてしまったら、こうなってしまう、という証言でもある。
 もう一生が終わりかけている私。今も、私が生まれる前にあった家庭の突然の終焉が、自分の生の始まりだったことに、罪というか重たい枷のようなものを感じている。幸せに暮らしながらも、悲惨な最後を遂げた「家族」が、土台にいる。心から幸せと思ってはいけないような気が、どこまでも続いている。

以下、機会ある折に発表した俳句を、この本の紹介とともに、再録しておこうと思う。


高松の七月四日我が縁  十河智

〈高松の空襲記念日は七月四日、私にとって特別の日である。父が全く知らずに、自分の妻子全員を失った残酷な一日であり、そこが、私の始まりの日である。その事実を知った後、私の思考の原点に渦巻く兄や姉の存在があるのである。東京や大阪など大空襲は、よく語られるが、高松でもこの日五千人が死亡したとされる。〉

七月の空襲熱き死でありと  十河智

終戦の年、7月4日の高松空襲がありました。逃げ惑う市民の中に、家族写真の父以外の全員がいた。後に市外から入り、遺体を探し歩いた伯父や伯母の話では、余りの熱さに防火用水の中で死んだ子がいたという。〉

家跡に戦士二人の終戦日  十河智

〈人も家も何もない、記憶と番地だけの家の跡。戦地に赴いていた男二人が、生きて帰る。一人の妻は、もう一人の姉であった。この二人を結ぶ縁は、消滅していた。〉

姉の名やセーラー服で入学す  十河智

〈父方の伯父伯母たちは、亡くなった甥や姪を可愛がったのだろう。写真の中に、私と瓜二つの子がいる。セーラー服の私に、その子の名で呼ぶ年老いた伯父がいた。〉

死の床に誰ぞ尋ね来や寒雀  十河智

〈父は死の床にいた。朦朧として脳裏には彼の人生が繰り返されているのだろう、ふと、全部が私たちではないんだと、外の寒雀ほどに知らない父を感じていた。〉


ニ ルポ「京アニを燃やした男」日野百草、第三書館

衝撃的な事件だった。
 初めは小さな火災かと思っていたら、どんどん死者が増え、放火でもあった。逃げられなかった人たち。
 時代に付いて行けず、京都アニメーションやその作品群について、何も知らず、その会社が宇治にあって、丁寧な背景が、出町や伏見、宇治をもとに描かれていて、聖地だという、そんなことも知らなかった。
 この事件のなぜ起きたか、想像が出来なかった。通り魔的、発作的な動機としか思っていなかった。こんなに大勢が亡くなった火事そのものについては、具体的な犯人の行動や建物の構造、仕事場特有の人の居場所などから、日に日に明らかになってゆく。
 犯人も大やけどして見つかり、治療中という。ただただこの男に何か語らせたい、そういう社会の意思がそうさせるのだろう。そう考えなければ、理不尽極まりない成り行きである。天秤にも掛けられない命の軽重である。
 この本がSNS で紹介されていた。少しでもわかりたいと思った。アニメーションというのは、若者にそんなに影響力があるのか、知りたかった。
 速報であり、ルポルタージュである。たんたんと書かれていた。ときおり、物書きとしての著者の成り立っていく過程が重ね合わされる。
 著者は、犯人のような心情や暮らし方は、そのへんに普通にあるという。彼が経験した不遇は、珍しくはないとも。普通人は思い留まる、が、犯人にはできなかった。
 最後に、著者は、生かされている犯人に、犯人が犯したことの重大性と、生かされていること、その意味を述べている。ホローコースト、ジェノサイド。恐ろしい言葉を連ねている。
 京都アニメーションの文化や歴史。それを生み出すクリエーターたち、人生があり、家族がいたと。それを一瞬に焼いてしまったと。
 犯人に、「君の末路は社会と関係ない。貧相な完成による君自身の帰結である。」と言い切っている。
 「京都アニメーションはまた立ち上がる。」
 この言葉が、希望に繋がる。

 犯人に向き合う形の構成、語り口。かなり早い段階での出版だが、勇み足にならず、読むものを納得させてくれた。ずっとあとになれば、社会もクールダウンして、ここまで言うかと思う言い草もあることはある、が、概ね今は受け入れられる。事件の衝撃がまだ残っているから。
 

スマホロス&ラブ〜機種変更、次いで保険証の変更も

スマホロス&ラブ〜機種変更、次いで保険証の変更も

          2019/12/26

          十河智

 突然スマホが充電できなくなった。受口の端子が潰れたようだった。いくら差込もうとしても入らなくなった。
 駅前のYモバイルショップへ慌てていった。修理できると思ったのに、できるかどうかわからないし、お正月を挟んで、直っても直らなくても、二週間以上手元にないという。
 スマホを手にして四年半だと、これも店の方でわかるらしい。機種変更を勧められた。
 慣れて自分のものになるまで、時間がかかった。やっと使いこなせるようになった。それでも、この歳の人間には、日々新しいことが起き、未だに難しいのだ。料金体系の仕組みがピンときていないし、この小さなブラックボックスが、便利すぎて、お金を使い過ぎはしないかと、まだ恐れながら使っているのだ。
 なに、使えない? 機種を変更しろだって?
 なんとかデーターをバックアップして、それ以上電池を使うと、もう使えなくなる。そうなれば、手の施しようがないと主人に言われて、ほんとに大慌てで飛び込んだのに、修理は損だと言われた。
 いろいろ不安はあるが、毎日使って、こうして投稿したり、ペーパーレス生活のメモ帳代わりであった。
 中毒になっているかもと思う症状もある。少し暇な時間ができると、スマホを身体が欲し始める。人さし指の先から弱いビームが発せられて、画面を突きたいと探しているように思う。脳から、メモの切り取りどこへ貼り付ける?と急かされる。今、半日触れないだけで、スマホロス状態なのだ。
 本もネット経由で買うようになると、電子ブックを使えと言ってくるし、Yahoo! は毎日のように,PayPayを勧めてくる。お財布携帯という物だ。が、今までもこれからもこれらは利用するつもりはない。こんなふうに充電切れが起きた時どうしようもないからと、前から危惧があったのだ。
 結局新しい機種にすることになった。同じメーカーにしたかったが、新機種発売を待っているところで、今は在庫なしだという。奨められるままに決めた。
 そこからがまた大変だった。お定まりの契約の説明を聞かされる。一括でも4年でも利子の減免はないという。3年の分割にはしたが、つい聞いてみたくもなる、「その間に、死んでしまったらどうなるの?」相手の若い女の子は、考えの範疇外だった様で、無視されたが。
 機種代金は安くなっている感じがした。メーカーが違うせいかどうかは知らない。通信費の上に2千円くらいの上乗せで3年間。
 だが、この3年が、結構人生の終活をと、切実に感じている時期と重なり、「どうなっても知らないぞ! 」なのである。
 ついこの間、主人に、「後期高齢者健康保険証」が、送られてきた。あれ程愛する元の勤め先との絆がまた一本切れる。後からその会社の健康保険組合から、連れ無い告知が来る。「保険証の返還を、期日後5日以内に行うこと」「家族の被扶養者も、この健保から外れるので、国保など後継の健保の手続きを行うこと」の2点が書かれていて、国保には、被扶養者という概念がないので、個人での加入となりますと注意書きがあった。周辺でよく聞く話は国保のほうが保険料が高くなるというものだが、この辺を暗示するような注意書きである。話が横道に逸れるが、健康保険証の手続きには、スマホのことがあったので、その翌日になったが、市役所に出向いてやって来た。私はほとんど収入がないので、保険料もかからないと高を括っていたら、保険料は、世帯の収入で決まり、国保からの連絡は、世帯主のところに行くというのだ。被扶養者とどこが違うのか、訳がわからない。個人加入と言いながら、世帯主?つい声高になって、「個人個人と言うなら、始めから終いまで、個人で通してよ!」「主人に何かあったら、またややこしい手続きに来いっということ?」
 おまけに、1月2日で期限が切れるのに、年末年始は休むので5日以降にしか保険証は出せないという。「後期高齢者健康保険証は向こうから来たけど。」というと、「あれは府の仕事ですから。」と。持病のある者にとっては、この切れは怖い。「どうしても必要になれば、臨時の代用書類が出ますから来てください。」だって。
 まあ、手続きだけは終えて、市役所の受付の小型電化製品スマホタブレット用の廃棄ポストに充電の完全に切れた前のスマホをポイして帰った。カードは抜いたが、本体には、何某かのメモリーが残っているのかもしれない。電池がなくなれば初期化もできず、エイっとばかりに捨ててきた。
 あれから3日、機種や進化に応じたアプリをインストール、lD・PWを何度も問われ続け、このスマホにもようやく慣れてきた。付き合っていける気持ちにもなってきた。
 心も安寧を取り返してきている。スマホラブ。 

充電不能スマホとなりぬ冬曙
数え日の突然来たるスマホロス
冬暖か機種選定のカウンター
データーは失はれずに冬の雲
SIM SD カードは抜いて冬落輝
習ひ覚えたつた四年や紅葉散る
大年越し分割スマホと保険料
歳晩の役所業務に声荒ぐ
寒烏回収ポストに古スマホ
スマホラブ大きな文字の師走の句