コロナウイルス拡大中、敢えて梅を見に。

コロナウイルス拡大中、敢えて梅を見に。

        2020/02/25

        十河 智

 

 シンガポールへの大旅行、その後の学校薬剤師業務、それらのあとのコビッド−19、今年は梅を見に行けていない。
 梅は、庭に植えてある家も多いが、一木でも全体を見て趣がある姿と思うので、やはり広い庭園で、眺めてみたい。

梅を見に行かなくてはと言ふ日毎  

 

 いつもなら、京、大阪の北野天満宮大阪城、長岡天満宮、奈良の社寺、いろいろと出かけるものだが、ウイルスの状況を見ていて、自分は喘息持ちで、基礎疾患のある高齢者に当たるかなあと思うと、患者の発生地、人混みは、避けたいと、今は外出は控えている。
 フェイスブックのお友達で、城陽市に住む方が、近所の梅林に梅見に行ったと写真を上げておられた。綺麗。どこかはっきりとは知らないところだが、行きたくなった。
 一日経って、また別の城陽市在住の方は、市でのイベントがほぼ中止と残念な報告をしておられた。各地で、いろいろな集会やイベントがこんなふうに中止されている    
 寝屋川市も、昨日開催予定だった寝屋川ハーフマラソンもいち早く中止することに決めていた。うちのJR最寄駅である寝屋川公園駅(旧名、東寝屋川駅)が年に一度溢れんばかりに乗降客で膨れ上がる、寝屋川市にとっての大イベントである。多くの若者がボランティアとして関わっていて、知り合いにも、力に合わせて、短いコースを走る人がいる。この頃になると、出発地点の府立寝屋川公園やコースを脚慣らしするランナーをよく見かけるようになる。このイベントが目標になって、励みにしている人は結構いるように思う。残念なことだが、仕方がない。
 ただ、人が来ないのであれば、青谷梅林の梅を見に行ってみようかと思い立った。ナビを設定してみると、青谷梅林では出てこない。一応、山城青谷駅というJR奈良線の駅に設定、21キロと出た。第二京阪道路を使うと、970円、それほどの距離でもないので、側道で走った。
 途中、少し危険と思ったことに出会った。高速ではないが、車が故障したのか、一車線塞いで停車、運転手らしい若者が携帯で通報しつつ、片手で誘導している。車線の真ん中、止めてある車のま後ろにいる。彼の位置が危ないと思った。発煙筒と三角の赤い標識、あれを使うべきだ。
 往きは30分くらいで行け、駐車場もすぐに見つかった。横の青谷小学校は駐車場へ帰ってくるときの目印になる。3時過ぎだった。
 管理の人が梅林までの地図をくれた。梅まつりの旗を目印に歩けと言われた。旗の並ぶ道筋までは、田んぼの畦を通る。この辺りは、普段高速道路から見ると、低い丘陵と農地が多く、見通しの良いところだが、その丘陵に梅林があった。

やむを得ぬイベント中止梅の花
都鄙朧梅のほのかに匂ふ里  

 

駐車場には、管理人以外に人はいなかった。もう一台入ってきた。その人たちも夫婦連れ、どこに行っても良く似た人たちと遭遇する。会釈で挨拶を交わし、先に行ってもらった。
 田んぼは、まだ枯れ色で、葦や蒲、薄が立ち枯れている。ゆっくりと畦の左右をを見ながらいくと、とびとびに小さい緑が萌え始めていた。踊子草、犬ふぐり。小さな花が踊り、笑いかけてくれた。
 小さな橋を渡ると、道が整い、古い集落がある。梅まつりの旗は、端が擦り切れていて、いかにも鄙びた風情である。もう37年目とネットで紹介されていた。庭に梅を植えている家もおおい。所々の塀に矢印とポスターがあり梅林へ導いてくれる。
 旗に従っていくと集落を抜け、丘に上がっていく。何区画かの畑地が開け、耕して冬菜を作っている。収穫なのか、農婦が、しゃがみこんで仕事をしていた。ここにも区画ごとに何本かの若い梅の木が花を咲かせている。
 各種のイベントは今日はあったのだろうか。
 ネットのポスターには中止のお知らせはなく、梅林にもさしたる掲示は見当たらない。
 梅林は三々五々と梅を見る人は来ていたが、地元の人は入り口で一人梅干しを売る人がいただけ。屋台も畳まれたままの何か所かが見受けられた。帰りがけの人が梅の枝を持っていたのだが、売っているような気配はない。もう少し早く来れば良かったかも知れない。
 梅はそれぞれの木で咲き方はいろいろであった。一つ一つをゆっくり見て回れた。老木の太く黒い枝に、目を奪われる、つぶらな一輪があった。艷やかで、張り詰めている。可愛らしくて健気に見えた。この一輪だけで、ここに来た甲斐があった。
 分かれ道になっていた。奥にもう一つ梅林がある様だし、ひょっとしたらそこが見せ場なのかもしれない。だが地図には急な坂と書かれていた。もう一方は緩やかに下りで、帰り道に繋がっている。梅あるところに天神さん、中天満神社が道筋にある。
 もう大分歩いている。急な坂は行けそうにもないと、下りを取ることにした。神社を通り過ぎると、集落のごく細い道に入る。昔はこうして寄り添って生きていたという日本のどこにでもあった鄙の佇まいである。
 往きに見た畑があったが、農婦はもういなかった。見晴らせるので、青谷小学校はよく目立つ。車に乗り込んだのは、4時過ぎ、ほぼ一時間歩いた。

コビッド−19閑散として梅
梅まつり旗に沿へよと地の農夫
急坂とあるこの奥にまた梅林
しみじみとつぶらに咲ける梅一輪
梅匂ふ奥にひつそり天神社
梅が枝を土産に戻る駐車場  

 

 駐車場のおじさんが、前の出にくい細い道への誘導をしてくれた。ナビをまた一般道に設定。5時頃には着く予定だった。
 ところが、第二京阪の側道は、帰宅時間帯で、京田辺付近で、高速から降りてくる車が多く、大渋滞。その辺りに連続するトンネルを抜けるのに30分以上かかった。運転の主人が、坂なので用心のため、いちいちサイドブレーキを引いている。「だから俺らは日曜は動いたらあかん。なんぼでも時間はあるのに。」とぶつくさ言う。横を高速のサァーー、ザァザァーと、軽く過ぎ去る車の音が行く。いつものパターンなのだが、この渋滞は予想していず、気の毒だった。よく知る地域なのだが、高速の側道は抜けた先がどこなのかわからなくて、他の道も選べなかった。
 6時には家に着けた。まだ宵の口でよかった。私は行ってよかった、大満足の一日であった。7時のニュースでは、またコロナウイルス関連の感染拡大を報じていた。

高速に乗れば良かつた春夕焼
渋滞の側道遅き日でありぬ
春灯す街トンネルを抜け出せば