私の年末風景
2021/12/29
十河 智
一 蜜柑
冬には、香川の小粒で甘いみかんが箱で届きます。毎年青果場に務める自分の弟に、私の弟の嫁が頼んでくれるのです。大阪で買う和歌山の蜜柑、娘の住む静岡の蜜柑、味はそれぞれです。
昔、実家も少し蜜柑畑を持っていました。父がみかん狩りも楽しいだろうと、十本くらいの畑を手に入れました。が、農家ではないので、世話を農家の親類に頼み、一家や知り合いに収穫をやってもらうのも、楽しみの域を超えていました。そういうのは一本木があれば足りるのです。最後は手に余って、手放しました。今帰って通りすがりに見ると、半世紀のうちに住宅地になっていました。
今は送ってくれるこの蜜柑が、懐かしい味で、とても美味しく思います。
香川の蜜柑
ふるさとの蜜柑小ぶりで甘きかな
植木屋へ香川の蜜柑とふ渡す
二 餅
香川の餡餅雑煮、少しは知る人が増えましたが、夫婦が同郷なので、うちはずっと餡餅雑煮なのです。白味噌も特別のメーカーがあります。年末になると餡餅、白丸餅、雑煮用の白味噌をセットにして、実家から送ってくれるのです。それで正月の雑煮を作ります。大阪で調達した餡餅だと、皮がとろけやすく、餡がすぐに飛び出すので、具合が悪いのです。
届いた餅は、一個ずつは焼いて食べますが、後は、お正月まで冷凍保存です。
餡餅
白丸餅
餡餅が届き安堵のさぬきびと
心做し餅の小さくなりたるか
届きたる餡入りと白餅を焼く
三 思い出の餅搗き
実家は米屋だったので、家で餅搗きをしていて、頼まれたら、搗いてあげたりもしていました。近所から集まってきて大勢で手分けして餅搗きしていました。28日か30日でした。29日は、餅搗きは、してはいけない日だと教えられました。
餅搗きは隣近所と我が庭で
餅米を淅す大甕の冷たきを
餅米を淅す冬の水濁りなく
竈の火小さく起こす冬の朝
竈猫髭縮らせて飛び出たる
四段の蒸籠の湯気を待つ間
賑やかに餅搗く音と間の手と
撞き上がる餅踊るよに板に乗せ
子供の手餅丸めむと構へてし
お鏡と指令飛びけり一臼め
自家製の餡包み込む手の円み
柔かき搗き立て餅にきな粉振り
四 年越
年寄二人、作り過ぎても困るので、初めておせち料理外注してみました。義妹が送ってくれたものに、和三盆糖が入っていて、おせちに使えということのようでしたが、追々日常で使うことにします。
大掃除も省略形。
煤払とまでは行かねど台所
年用意買い物メモを消してゆく
母の味とぞ娘の言へる晦日蕎麦