2021年秋の話
2021/09/25
十河 智
(コロナ禍の、今年も既に秋。すぐに終わると思っていた。だがまだ長引いている。)
身内とたまに電話をする。弟は9月が誕生月と思い出し、久しぶりに電話してみた。奥さんが電話に出て、かなり話した。弟は電話を取ったときだけ。声を聞いただけ。いつものことだ。
高松も緊急事態宣言下である。
甥や、彼女の弟さんの現状を聞いた。かなり影響があり、大変そうだ。
甥はビルの地下でバーをやっている。今は助成金を受けて休業中だそうだ。宣言明けに認定を受けて営業再開すべく、店内を模様替え中だという。窓が無いため、換気設備を置いたり、アクリル板で隔壁を作ったり、いろいろあるようだ。
貸しスタジオとイベント会場を経営している彼女の実家の弟さんの店は、飲食を止めて、窓を開放した状態、感染防止を万全にした上で営業継続中だという。
店の構造により、感染対策も、営業継続の是非も様々のようだ。
弟夫婦は変わらず、元気そうだった。
奥さんは社交ダンスのレッスンはずっとあるという。どうしているのか聞くと、シャドウ、とかなんとか。一人で空気を抱いて踊るらしい。また、基本的な型とステップの競技もあって、そちらの練習は一人が普通だそうだ。
彼女が習いに行っているお花の教室とか、朝に公民館に集まる会のようなものは、今は休止中だという。公共の会議場や会館が閉館中のためであるという。
弟は、ボランティアで、栗林公園や玉藻公園のガイドをしているが、それも今は活動停止中。
私も、高松の参加句会はそれと同じ事情で、主宰の個人的な指導のみになっている。大阪でも、少人数で先生の家でしている書道は中断中。再開するかどうか、先生の気持ちの問題もあろう。主人の陶芸教室も将棋クラブも、どちらも会場が開かないので、もう一年半、休止したままである。
こうなったら老夫婦で、家族で、寄り添うしかない。窮屈な暮らし方になる。
そんなわけで、弟夫婦も、なんとかかんとか、日々を過ごして、ワクチン接種ももうすぐ2人とも2回終わるという。
[ルビ、実家の猫
洗濯かごが、今気に入っているそうです。]
話は変わるが、弟の家で飼っている猫、ルビ、5歳位、元気かと聞いて、返事に驚いた。半年くらい前に脾臓の癌が見つかって手術して、術後、抗癌剤を飲み続けているという。家族、身内のことを聞いているのと同じ気持ちで聞いた。今は体重も増えて来て、少し元気になってきているという。
高松へも去年3月に帰って以来、一年半、やはり帰れていない。電話は何回かしたが、ルビの話は、あまりしてなかったかもしれない。弟嫁は、「話したよ。」というのだが、聞いた記憶がなく、ほんとに驚いた。ずっと行動が制限されていると、忘れること、曖昧になることが多くなった気がする。
猫も、家族、今は病気をすればこうして、手術もする。薬も飲ませる。身に沁みて、当然だと感じた。
小さいときから犬も猫も飼ってきた。交通事故でなくしたり、病気でも、大昔は獣医さんは家庭の動物をあまり見なかった。動かなくなるのを手をこまねいて見送ったことを思い出す。
弟とは、冬にどちらが抱いて寝るかで、猫を取り合ったことがあった。大岡裁きのように、猫がギャーと叫んで、私が手を話し、決着がついた。大岡越前守はいない。弟が猫を連れて行ったのだ。
そんな具合だから、実家の猫はしあわせだと思う。手術をしないと何か月とか余命を告げられたらしく、すぐに手術をしたらしい。
行き来が自由になったら、まず実家に行こうかと思った。ルビの見舞に。
うちは主人が動物嫌いで、おまけに婿が動物アレルギーと判明し、飼えないのだ。実家にいるときは主人もルビをしぶしぶ撫でたりする。ルビのほうが、主人にすり寄っていく。だが、私が呼んでも見向きもしないルビ。面白い関係だ。
長生きしてよね。
逼塞の一年(ひととせ)義姉(あね)の桃届く
いつの間にいま再びの紅葉かな
シャドウステップ秋の灯揺らぐレッスン場
公園のコロナ閉鎖や松手入
秋澄むや墨たつぷりと含む筆
焼かぬ陶土(つち)色なき風に罅割れて
紅葉づるに開かず栗林公園は
弟の猫懐に布団へと
犬猫と遊びし庭や星月夜
闘病の猫がゐる家小鳥来る
一錠の延命信ず良夜かな