睡眠導入剤誤投入経口抗真菌剤による被害は何故起きた?

睡眠導入剤誤投入経口抗真菌剤による被害は何故起きた?

       2020/12/25

       十河 智

《薬剤師のつぶやきです。独り言です。》

 医薬品製造工場での普通は起こり得ない成分の誤混入によって、多くの被害が発生した。

 この会社の規模ほどの製薬工場に身を置いたことも過去のキャリアに持つ薬剤師から見ると、「あってはならない」を超えて、「あり得ない」事件が起きている。

その顛末について、言いたいことが湧いてきて、少し呟きたくなりました。覚えとしても書いておくべきと思いました。

 

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 最初の疑念の声は、処方医から上がった。処方した患者が次々と事故や意識障害を起こしたと薬の販売会社に電話と書面で訴えた。

 処方箋薬であったことが、当該のLot.を服用した人の全数把握、被害状況の事実確認、回収の迅速さに繋がった。

 医師が販売会社に患者の異変と、投与の薬が同一Lot.であり、何らかの製造過程での不都合が考えられる由を通報し、販売中止を求めてから、ほぼ一ヶ月以内で被害が広がらず食い止められた。不幸中の幸いであった。

 しかし本来の成分、イトラコナゾールの常用量は50㎎から200㎎、誤って混入した成分、塩酸リルマザホンの常用量は1mgから2mg、桁が違うのである。どれほどの量を継ぎ足したのかどこにも詳しい情報が見つからなかったが、少ない量で作用が強いものを多い使用量に合せたオーダーで投入するのであるから、誤投入薬物の通常使用量を超える含量の一錠ができ、思いもかけない作用を表す結果になったのは、当然といえば当然の結果である。

 

甚大な健康被害発生に伴う

『イトラコナゾール錠 50「MEEK」』の使用中止と回収のお願い

(製造販売:小林化工株式会社、販売:Meiji Seika ファルマ株式会社)

 

[製造工程の中で、認可手順にない成分の継ぎ足しを行い、それの取り違いによって、全く別の催眠作用を持つリルマザホン塩酸塩水和物を混入、健康被害が生じているという。]

 12月7日に日本薬剤師会から全国の薬局と薬剤師に向け、ニュースの号外として、製薬会社からの上のお願いが発出され、被害のでた成分混入のLotは、販売会社、卸会社、調剤した薬局を通じて追跡され、ほぼ一週間で、回収を終えた。処方されていた患者の服用を全て止めることができたと報告されていた。これ以上の広がりはないようで、一安心である。

 

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[この会社では、認可された手順にも違反があったということで、イトラコナゾール錠の他のLot.、別の用量の製品もすべて回収対象としている。]

 新聞報道によると、認可された製造工程表には、「投入・混和の際のロスを調整するための継ぎ足し」という今回問題を起こした工程はない。

 届け出て認可された工程に基づいて作業するのが医薬品製造では、大前提である。それゆえ、継ぎ足しをしていたすべてのLot.が適法でない医薬品なのである。

 

四 

 この工場の社内の規定でも、ここはニ人で確認し合いながらの作業の筈だった。それを、一人で行ったとある。製薬工場の、秤量、投入の作業を一人で行うなどは考えられないし、あり得ない。何人もの目で、何段階かの確認を行うのが普通である。私が、半世紀前であるが、勤めていた工場でも、どの工程も、慎重に複数で行うようになっていた。

 薬を作る、扱う業務の鉄則であるし、一人一人が、心底間違いがあってはいけないと、自覚していたように思う。

 そういう意識の面を考えても、あり得ない事件なのである。

 

 また、この発端の誤薬混入は、7月頃の事で、出荷は9月頃だそうだが、医薬品の在庫(残量把握も含めて)管理を的確に行っていれば、出荷前に過ちに気づいて、被害を未然に防げたかもしれない。棚に管理もされずに睡眠導入剤が置かれているなど、これもまた、あり得ない保管の仕方なのだ。

 私も、今まで色々と職場を変わってきたが、品目によっては、法令に定められているものもあるし、範囲を越えて、誤使用によって起きるリスクがある医薬品や成分のもの、睡眠薬などは、特に厳密な在庫管理をしてきた。製薬会社でも病院でも薬局でも、棚を別にしたり、毎日数量の確認をし、記帳していたし、数が合わなければ、原因がわかるまで調べた。病院ではよく夜間の緊急事態などに急な使用があったので、大変だったが、記帳と数量の確認は、この様に、業界ではごく普通のことである。だから、これが製薬工場で起きたことだと今も信じられないくらいである。 

 

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 医薬品の品質に関しては、出荷前になすべき試験が課されている。現場ではルーチンとなってはいるが、気を抜いてはいけない。異常を見逃さず、適切な処理をする為に、やっている事を忘れてはいけない。

 報道によると、製造過程で、投入した成分の正体を示す番号の記録があったという。毎日の記録をよく見れば、ここで違う成分が投入されようとしているとか、してしまったとわかったはずである。原料がまだ粉の段階で、廃棄する事ができた。

 また報道によると、有効な成分の定性定量のための液体クロマトグラフィもサンプリング試験として実施され、この混合異物もピークとして小さく現れていたという。ここで見過ごさず、疑いを持っていたなら、箱に入れられた製品になっていても、この段階で廃棄し、市場に出さずに終わっただろう。

 コンピューター管理の導入云々も取り沙汰されているが、この会社の場合、それ以前の問題ばかり。

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 厚労省の立ち入り調査で、明らかにしてほしいし、詳細を公表してほしい。「してはいけないこと」「間違いが起きる道筋」、それをきちんと明らかに見せてもらう事で、他の者たちの気が引き締まる。もう一度考える機会ができる。