コロナ禍、あれこれ ……  続き5

コロナ禍、あれこれ …… 続き5

          2020/06/16

          十河 智

十八

黒南風やウィズコロナウィズアルコール  

 徐徐に緊急事態宣言が解除されていき、世の中が、元には戻らないまでも、人が街に出かけるようになった。
 学校での学習環境を快適、かつ安全にという目的を持って、学校薬剤師が活動しているのだが、その一員である私も、今年は、委嘱状を受け取ったのは6月に入ってから。
 寝屋川市では4月にも、登校日が断続的に設けられていたようで、養護教諭から、学校の教室や子供の手指などの消毒に使用する薬剤や手順について何回か電話で相談を受けた。
 非接触型の体温計が、どこに聞いてもないというので、薬局関係の問屋でも手に入らず、予約できる上新電機を見つけ、伝えたこともある。生徒は登校前、家で測ってくることになっていて、その需要から、近隣市場から体温計そのものが消えていた頃である。登校に必要な、マスク、消毒用アルコール、次亜塩素酸ナトリウム、全てが手に入りにくくなっていた。先生方がネットで情報を得ては、こんなものは代替え品としてどうかと聞いてくることもある。大抵のものは、宣伝文句が大げさで、コロナウイルスでの実証実験の成果の報告が見当たらず、「コロナ対策としては、使わないでください。」としか答えられなかった。
 教室の消毒は、先生方がやるしかなかった。感染の危険性、有害物質ともいえる消毒液、子供にやらせるわけにはいかない。
「消毒液、噴霧していいですか?」
「一日一回でいいですか?」
 手間を省いてあげたいが、どちらにもノーと言わざるを得ない。噴霧は隙間なくとなれば大量の薬剤がいるし、それでも消毒できていない隙間ができる。空気中に有害な薬剤が飛散し残留し、生徒は影響を受ける。またしばらくは、時間を区切っての交代の分割少人数登校なので、人が入れ替わるごとには、ドアや手摺、机、椅子、トイレなどは消毒してほしい。消毒用アルコールをふんだんに使えるならば、後成分が揮発、残らないので、一度拭いて回ればすむのだが、これは手指消毒用に使いたい。それで、部屋の清拭には、次亜塩素酸ナトリウムを使う。使用する場合により濃度が違うし、水溶液の液性が材質を痛める可能性もある。必ず水で上拭き、と注意が必要なものである。感染防止の手順は案外複雑で全作業者に周知する必要がある。学校は大変だったと思う。
 6月に入ると、毎日の登校が始まる。また急に夏日があるようになり、熱中症にも気を配らなければならない。
 3ヶ月ほど休業が続いたので、水道水の蛇口の遊離残留塩素濃度が十分であるかの検査を、まず行うことになった。児童生徒が安心して蛇口から出る水を飲んでよいか、調べるもので、例年だと夏休み明けにする検査である。授業再開の前に、長時間の放水により、水道配管内の澱んだ水を、新鮮な水道水と置き換える。その成果を見る検査でもある。
 今年初めて担当校に入った。小学校では養護の先生が産休に入っていて、代理の先生になっていた。電話だけだった先生とやっとお会いした。
 少し逸れる話になるが、小学校に車で行き、駐車場に止めて準備をしていると、車の窓をノックする人がいた。少しあとから入ってきた赤い車の若い女性であった。構内まで車で入るのは、そうは居ない。教師であろうとは思ったが、養護教諭はこの時間、仕事中である。誰だろう、何事か、そう思いながら降りてみると、ニコッと笑いかけ、「十河さん、知栄子です。」という。小学校で名前で自己紹介をされることはまずない。また、一応先生とお互いに呼びあってもいる。すぐにわかった。
 栄養士をしている娘の幼馴染みの知栄子ちゃんであった。給食室の栄養士も今年は産休で、自分が代理に入ったという。病院に勤めていると聞いていたのだが、やめて産休要員に登録しているという。赤ちゃんの頃から知っている子が頼もしく仕事をしている。まあ50歳に近いはずだから、当たり前なのだが、嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。ちょっと違う気分が拭えなかったのだ。また給食室にも行くと思うと、少し話して別れ、その日の予定をこなすため、保健室へ入った。
 翌日、今度は中学校に出向いた。同じ検査のためである。
ベテランの養護教諭の先生がクーラーのフィルター掃除の最中であった。
 6月から、中学校は部活も通常通り始まっていて、コロナに神経を使うとお疲れの様子であった。保健室のコロナ予備室、発熱の子の隔離用に一部屋設けているという。
 コロナウイルスは対策に大変な神経を使わせる。子どもたちが生活を取り戻すたびに、一段高い対策を要求される。現場の先生たちの当座の問題に知っている限りの助言はしているが、衛生的な環境作りは、もっとシステマティックに専門的に行われるべきではないかと思う。今はすべて当該学校の教師たちに任されている。
 中学校の先生が、教育委員会や市から、学校で使えと、違う種類の消毒剤が3種類送られてきたと、机の上にどんと並べた。
 ✳消毒用エタノール
 ✳微酸性次亜塩素酸水
 ✳ミコリア液(食品添加物、殺菌用)

その他、学校で用意備蓄したものもあり、どういうふうに使ったらよいかという。
 厚生省や文科省によれば、手指消毒は消毒用エタノールか石鹸による手洗い、教室の消毒は消毒用アルコールか次亜塩素酸ナトリウムによる清拭で、いづれも噴霧してはいけない、とされている。
 次亜塩素酸水、ミコリア液は、生鮮食品の流通過程での殺菌剤として使用されているが、コロナウイルスでの効果の実証報告されていないので、推奨されていない。
 文科省の指針に従うよう助言して、次亜塩素酸水やミコリア水は、一般的な清掃後の消毒、例えば、今のクーラ清掃後などに使うようにしたらどうですかと言っておいた。

 消毒用アルコールの代替品として、様様取り上げられていて、商売になり、巷では実際使われているようだが、やはり冷静に効果の実証が求められる。
 中学校では熱中症対策はより重要である。部活で汗を流す。水道蛇口に、ウォータークーラー、気になるところを指定されてphと残留塩素濃度を測定した。その水飲み場周辺に、変な赤い小虫が大量発生しているというので、写真に納めて調べると、カベアナタカラダニという害のないダニ。アレルギーはありうるので駆除するのなら市販の殺虫剤で良いと伝えた。赤く蠢いて、気持ちは悪い。

 以上、久しぶりに学校に出務したときの様子である。先生が少し楽になればいいのに、学校がクラスターにならないように、そこが一番の願うところだ。

 次は給食室の環境調査が、予定されている。近近知栄子ちゃんのお母さんに連絡して今の姓を聞かなければ。まさか、知栄子ちゃんでは通せない。

涼しきや校庭のここたんぽぽ野
先生のコロナ禍疲れ梅雨入りす
コロナ対策プール授業も給食も
プリウスの真つ赤が眩し大緑陰
大人なる娘の友や真夏日
産休の代理と語り片陰に
フィルター掃除クーラー始動の保健室
カベアナタカラダニ赤く蠢くコンクリート
相反の対策コロナ熱中症
消毒液三つ並べて黴雨かな
蔓延のコロナ商法芒種なり 

 

十九

美容師のコロナ対策梅雨曇

 

 六月も半ば、世の中も動き出した。

 ショッピングモールの中の休業要請に従っていた美容院、そろそろいいかなと予約の電話を入れた。その日はいっぱいとのことで、翌日夕方になった。店側が抑制しているのか、みんな外に出る前に美容院にまず行っているのか。

 予約の日、土曜日のせいか、ショッピングモールも、あれぇーというほど混んでいた。駐車場は普段開けないゾーンも全部開けていた。自粛が始まって以後、初めてこんな人混みに入り込んだ。

 若いカップル、子供を連れた夫婦、三世代揃った一家。みんな外に出たくてたまらなかった、やっと買い出しに来た、そういう感じで大荷物ばかりであった。

 夕方4時半に、美容院に入った。コロナ対策にまず手指消毒。やはり受付や鏡前を個々にビニールシートで覆っていた。美容師は、完全防備だが、しかしやっぱりおしゃれは忘れていないようだ。しっかりした黒いマスク、ゴーグルに近い眼鏡、密着度の高い手袋。

 客も皆あまり喋っていない。淡々と人が入れ代わり、効率よく仕事をしている感じ。

 間でいつもはサービスで出るお茶は出なくなっていた。雑誌も持ってこない。うとうと、されるがままに、いつもより速く、カット、シャンプー、パーマ、トリートメントと進んでいった。一時間半くらい、6時ごろ、ここで勧められた手入れ用のオイルを買って、店を出た。

 主人はどこかで、将棋の雑誌の付録の詰将棋を解いて、時間つぶしをしていると思うので、ショートメールで連絡した。ここで久しぶりに買い物と食事をしようかと思っていた。

 主人と合流して、フードコートのミスドのコーヒーで、喉を潤し、別の階のレストラン街に移ったのだが、なんと、まだ19時までの営業で、ラストオーダーの時間は過ぎていた。大勢が、店の前で断られていた。もちろん買い物もできなかった。

 近所のココスや蔵ずしは開いているので、ココスに寄ることにして、雨が強くなっている駐車場に出た。主人が濡れて車を回してくれた。美容室帰りの髪を濡らさずに済んだ。

 

 「だいぶ濡れた。」

 「すぐ乾くわ。」

 

 帰宅後、主人は、すぐにお風呂に入って、パジャマに着替えた。

 

大渋滞ショッピングモール梅雨に濡れ

美容室自粛解除の梅雨に密

梅雨時雨カウンター席窓に沿ひ

一杯のコーヒ喉の渇き切り

コロナ禍の今もただ中夏の宵

濡れてゆく君の背中を追ふ夕立

梅雨寒にくつろぐ風呂とパジャマかな