庭の池ができた頃

庭の池ができた頃

          2020/06/08

          十河 智

 

 花の初めに切って活けた花菖蒲、このところ満開で、今年はとても綺麗に咲いている。
 朝、障子を開けると、サンルームの向こうに青紫の花が飛び込んで来て、「きれいだろ?」と言って、自慢げ。
この花菖蒲は、まだ娘が3歳くらいのとき、枚方の山田池の花菖蒲園に遊んだとき、買った2株。花の頃に花を見て予約。その後株を取りに行ったと思う。かれこれ45年、最初はプランターで育てていた。
 娘が中学に入った頃、私は、死ぬかも知れない大病をして、半年ほど入院した。私が草刈りや庭の諸々は担当だったので、主人が言うには、「庭の草抜きの手間を減らすために、石を貼ってやった。」そのとき同時に、この池もできていた。退院すると部屋から見える景色が一変していた。草は生えないが、照り返しがきつい。ありがとうと素直に言えなかったように記憶している。
 まず、高さを作る樽を2つ下に置いて、花菖蒲のプランターを入れた。
 金魚鉢で飼っていた縁日のコメットを入れた。
 病気の余後の通院中に病院の前のバス停近くに睡蓮を売る花屋があった。睡蓮を2株買ってバスに乗った。これを池に浮かせて、やっと少し緑の見える庭に戻った。
 その頃は、まだ近所は田んぼが多く、畦の用水路に芹を摘んだりもしていた。だんだんに、田んぼが消えていき、固定資産税が宅地並みになった時点で、どっとマンションが立ち始めた。このままでは、芹が取れなくなると思い、根から抜き取ったものを植えた鉢を、池に入れた。
 それから道路ができたり、街が整い、景色が変わらなくなると、鳥が庭に来るようになった。すると、代を重ねてある時まで増えていた金魚がいなくなった。猫も通るが、私は鳥のせいだと思っている。

睡蓮や池ある家に退院す
死の淵と思ひし病睡蓮咲く 
花菖蒲池に朽ちたるプランター
探しけり赤い金魚がいた筈と
田水引く水路の芹を貰ひけり