令和元年、関西現代俳句協会主の「第44回亡年・句集祭」

令和元年、関西現代俳句協会主の「第44回亡年・句集祭」

          2019/12/22

          十河智

今年、令和元年、関西現代俳句協会主の「第44回亡年・句集祭」に参加した。十二月七日、その一日を何章かに分けて書いておきたい。


 私は、俳句十年目くらいに、句の傾向が現俳的と勧めて紹介してくれた人がいて、会員になっている。求められる投稿には必ず応じるようにはしていたが、講演とか、忘年会、総会など、人が集う場所に行くことはなかった。
 ここのところ、フェイスブックに投稿するようになって、俳句を読ませていただいたり、お友だちとして交流させていただく方々に、現代俳句協会会員の方が多いとわかってきた。また今年から大幅に役員がたが変わられたということで、よくフェイスブック上で目にする方々が連なっておられた。
 同時に開催される句集祭という催しがどんなものか、気にはなっていたが、句集を出されるくらいの方々には、気後れがあって、近寄りがたかった。
 今年は奈良で行われるという。車で行き、よく遊ぶ場所なので、迷うことはないなと、妙なところで、行く気になっている。
 ただ、この前奈良に行ったときに、この日、「12月7日、と翌8日は奈良マラソンで、交通規制に注意」の横断幕を見掛けていた。電車で行くしかなかった。奈良へ電車では、鶴橋、または丹波橋で乗り替え、何れにしても遠回りであったことを思い出し、どう行こうかと思案していた。が、会場のホテル日航奈良はJR奈良駅に繋がっているとわかり、京橋乗り換えで大和路快速に乗れば簡単に行けるとわかった。全線JR、乗り替え一回でいいのだ。気分が楽になった。
 大和路快速には始めて乗ったのだが、沿線は色々表情が変わって面白かった。
 大阪の環状線のよく知る市街、天王寺からの町中、久宝寺、八尾から王子までの郊外、明日香、法隆寺大和郡山の冬の田園と車窓の風景は変化に富んでいた。列車の移動の早さは風景を十分に眼に収められるものであった。

福島のホテル阪神冬野菜
高架より冷たき黄色してオブジェ
見知る町見知るビルあり冬烏
大雪(たいせつ)の水都大阪大和路線
寒禽やしばらく旧き大阪を
斑鳩の里の枯野や鉄道で  十河智


 JR奈良駅も初めて降り立つところ。バスで一度駅前を掠ったことはある。そんなに大きくはなく、改札を抜けるとだだっ広い空間があり、東口と西口にそのまま開け放たれている。正面はパン屋さんの併設カフェが全面ガラス張り。明るくて、駅構内という感じは薄い。
 「マラソンは東口」「ホテルは西口」と至極分かりやすい案内が見やすく大きく掲げられていた。
 パン屋さんには、誘われる様に、大勢が入って行く。ちょうどお昼時。私も。改札口が正面のカウンター席に座って、句集祭が始まるまでを待った。
 外国人が多いが、電車で来る人は個人や家族の旅行者のようで、観光地の奈良公園で見る団体客よりは、落ち着いているし、空気をかき混ぜたりしない気がする。京都駅で見る光景とも違う。皆目的を持ってまっすぐ進む。マラソンの人かなとも思う。

乗降多きマラソンの駅寒波
東口マラソン西口ホテル奈良の冷え
自動ドアのそこに立つなよ寒気入る
手袋脱ぐコンセントあるカフェ座席
冬の駅外国人の立つ自然  十河智


 ホテルは二階の通路のようなところから、ロビーのある三階ヘ。ふだん通る国道側からではわからない広さと奥行があった。
 もう少しざっくばらんな空間を想像していたのだが、会場はテーブルごとにセッティングされていて、一方の壁際にそれらの句集が、並べられていた。
 私の着いたテーブルに、旧知の仲で、友人の前田霧人さんが来ていて、一気に気持ちが解れた。彼は、高校の同窓であり、同窓会でよく会っているうちに、お互い俳句をしており、現俳会員であると知った仲である。人を紹介してくれたり、いろいろと作法も教えてくれて、居心地を良くしてもらえて助かった。彼にくっついて行きながら、句集の著者や宇田先生にもご挨拶できた。

句集祭りへと思ひ立ち聖樹立つ
知己一人ゐて和むかなコート掛け  十河智


 著者が、登壇して、自分の句集について紹介していった。
 句集を余分に持ってきていた著者もいた。是非に読ませていただきたいと、千坂奇妙さんの第一句集「天真」と、浜脇不如帰さんの、句集「はいくんろーる」を、お願いして、手にした。他にも、たくさんの惹かれる句集があったが、このお二人のお話に特に魅力を感じたのだ。どんな俳句を書かれるのか是非読んでみたいと思ったのだ。
 教師であったが、やめて、旅に生きてきたという僧籍を持つ俳人、千坂奇妙さん。俳号と句集の題名に、すごく関心を持った若い俳人、浜脇不如帰さん。
 これまで句集はいろいろ読んだが、今まであったことのない新鮮な感じのある人たちであり、句集である。一読はしているが、じっくり読ませていただこうと思っている。
 奇妙さんの言葉世界は私のいるところに近く、端から端まで透き通るようによく見えてくる。気持ちよく一気に読めた。
 逆に不如帰さんの言葉世界は、全く別のところに紛れ込んだようで途方に暮れる。キリスト教徒で、それが句に影響しているらしいと略歴で知った。彼は挨拶で「俳句に残した言葉は腐らない。」という意味のことを言った。それが気になった。心に残った。挨拶をするのは辛そうな若者であった。俳句って詠み手側からの発信である。すぐに伝わる言葉ではないが、迫ってくる。そこにある何かを見つけてほしいと、迫ってくる。接することからすべて始まる。この出会いは、私の、読み手の、世界を広げてくれることだろう。

句相撲も初体験や冬灯し
冬の夜や著者の気持ちのある句集
一生の纏めの句集冬木の桜
一会ありしアフガニスタンの冬銃声
放浪とも求心とも旅冬の月
吐き出して俳句腐らず冬の水
  十河智


 句集祭のあと、懇親会があった。お料理は本格的で、食べ切れなかったが、美味しかった。句相撲という遊びをやった。俳句の人のよく箸袋で即興でやる居酒屋句会があるが、それの宴版であろうか。面白かった。
 同じテーブルに、枚方の方がいたり、私が投句している雑誌の選者の高橋将夫先生、千坂奇妙さんもいた。テーブルごとに一句を選ぶときに親近感が盛りあがる。
 頃合いに、岡田耕治先生や曽根毅さんにもご挨拶に行けた。岡村知昭さんがわざわざ来てくれた。こうして少しづつ、交流が濃くなっていく。
 フェイスブックでのお友達、西谷剛周さんは司会でお急がしそうだったが、参加者が盛り上がる様、気を遣ってくださっていた。私達のテーブルで、この方の句会のおもてなしのことも話題になっていた。
 後で気づいたが、他にも、句会で同席したことのある人が二、三人いたようで、ご挨拶しておけば良かったと思ったことである。
 意を決して出掛けてよかった。
 同じ方向の方々と、大和路快速の四人席二つを陣取って、楽しくお話して帰ったのも、あまりにぼぉーっとしていて、最寄り駅を乗り過ごし、引き返したというのも、いい思い出になるだろう。

冬の暮句集を抱きて散会す
暖房の大和路快速四人席
一人降り二人降りして来る寒気
  十河智


千坂奇妙第一句集
 「天真」

 句集祭の懇親会では同じテーブルに、著者の千坂奇妙さんがいらした。とても静かな一見普通のお勤め人風の方だった。この方が、一人全国を行脚し、全世界を股にかけ、旅をし尽くした方かと疑ってしまう。
 句集の感想は、率直、簡潔であるということ。とても面白い句、清々しい句、嘘のない句、そういう句ばかりが並んでいて、作者の関心事は多方面に偏りなく向けられている。お人柄なのでしょう。
 所属結社「青垣」代表の大島雄作氏の前書き、「いのちを見つめて」に、丁寧な鑑賞と紹介があり、この句集に収められた句の多様な傾向をうまく纏められていて、よかった。

 私の好きな句を挙げる。
《植物記》
クローバー四つ葉見つけただけのこと
チューリップ半開きこそ頂点か
式場のゆりの雄しべは切られけり
むらさきの雨となりたる紫蘇畑
九条葱よ下仁田葱につんとすな
《昆虫記》
皇后に守られゐたる小石丸
海峡にアサギマダラの通る道
ゴキブリはもつとゴキブリ殖やしたい
鬼の子はバンジージャンプしたまんま
生きるとは居直ることか枯蟷螂
《動物記》
桜貝未だ生きたるままを見ず
蛸の子に烏賊の子混じるしらす干し
マンボウの浮き寝うたた寝春満月
われに無き熱情かくも夏鶯
しつぽなきトカゲとヒトは間抜けやね
汚染土に冬眠の蛇絡み合ふ
鰭だけを獲られて鱶の沈みゆく
《風日記》
樹木医の担ぐ馬鹿棒植樹祭
夕焼の沈むあたりかガンダーラ
無住寺の縁に旅寝の良夜かな
《残照記》
戦争の話聞き出すとんど焼
雛二十歳こけしは三十路我は古稀
ドローン来て声無くしたる揚雲雀
《天真記》
龍天に富士山越えてゆくところ
故人なほ座つてをりぬ夏座敷
月天心サハラを照らし何もなし
荒星に誕生日あり死期のあり
金箔に白息かけて皺のばす
天真は何もない空雪晴れて


浜脇不如帰句集
 「はいくんろーる」

不如帰さんは、私の子供世代、四十歳くらいの人である。
 俳句とロックンロールが掛けられた題名に惹きつけられた。どうしても読みたくて、手持が無くなったといわれるので、後から送ってもらった。
 正直、初見、一読したときは、面食らった。前にも書いたが、途方に暮れた。何回か読んでいると、少し判る事も出てきた。

▷ 独特の韻の踏み方。

風上で鵲詐欺に稼がせる  不如帰

▷ 独特の掛け言葉?
 
 龍(じゃ)踊りたい汝が先けんね起きっとは  不如帰

[じゃあ踊りたい][長崎県ね][寝起きっとは]こんなものが裏に隠れていると思ってしまった。

▷ 独特の皮肉、揶揄

吾輩ニャ祭金魚も日々の糧  不如帰

 
 猫が来て金魚すくいの水槽を狙っているようにも、香具師の独白とも。

▷ それぞれに題がつけられた七句、あるいは、十五句が見開きで並んでいる。投稿の俳句誌の形式らしく、この一連句句が題の下、薄く繋がって一作品ということだろう。
 題は求心の真中にあり、単位句は、原子軌道上の電子のように、渦に乗るように、銀河系の星の様に、それなりの相互作用によって位置を保っているようなのだ。一つの句も、もちろん、独特の光を発して自律、存在を主張する。一つ挙げる。

 閣下 
吾輩もツメで清白摺らさるゝ
黄砂かな吾輩は息ピスピスと
吾輩の肉球ぺたり梅雨の居間
吾輩ニャ祭金魚も日々の糧
ねこじゃらし吾輩利き手構えたり
吾輩の主は胃弱屁はきつく
吾輩の額も縮む日の寒さ  不如帰


▷▷ 最後に気にいりの句、好きな句を挙げる。謎が解けたら癖になる。

正午過ぎ指揮者不在の蝉時間
抜け道を知ってたりするキャベツ畑
蟷螂にうなじを見せる紋白蝶
関節のどこかほつれる枯木立
直角に近付く機嫌麦青む
親分が保釈されたぞ潮干狩
セーターや電気鰻になる心算
よっこいしょ春の水から銀の斧
夏フェスや日本語まろぶ自己紹介
雨天決行稲雀対豆鉄砲
食い逃げがシェフのきっかけ燕の巣
ひとくちで二ッ星つく海の家
熱(ほとばしり)がプラズマ化する油照
食パンを向日葵式に耳から食う
すっからかん疲労彩る枯木立
ひいじいちゃん凍て空とかすウォシュレット
ガガーリン「踏んでた麦は青かった」
ポッキーに折れる事なき恋心
錠剤は転がりたがる星月夜
金星を見事射止める二日月
  浜脇不如帰句集
  「はいくんろーる」より