興梠みさ子句集「海からの風」を読みました

興梠みさ子句集「海からの風」を読みました。

〈2019/12/02 興梠みさ子さんは、帰らぬ人となられました。ここに深く哀悼の意を表し、お悔やみ申し上げます。〉
              2019/10/08
              十河智

 興梠みさ子句集「海からの風」を贈っていただき、読みました。
 興梠みさ子さんとは、俳句、SNS のお友だちとして、この句集の完成間近のころ、知り合いました。まだ2ヶ月くらいなのです。しかし、彼女の特別な現況を案じつつ、交流が重なると、とても得難い、導師でもあるような存在になりました。
 彼女よりも少し早く生まれ、多分少し長く生きることになるだろう私に、来るべき時にどう臨めばいいかを見せていただいているようです。
 この本の帯に紹介されている彼女の思い、
 「じぶんのそばに俳句があることに気づきました。」
 「病気になった私にも出来ることがある。」
  「出来るだけ明るい俳句を詠もう。」
 これを、実現し、出されたこの句集。大事に、繰り返しに読ませていただきます。
 今日この頃の秋の空のように明るく澄み渡っています。
 同時に作られて、配布されたCD 「風に立つ」も、私にとって初めてに近い経験で、心を揺さぶるものがありました。みさ子さんをより身近に感じられ、お会いできぬ関係、距離を近づけて貰いました。
 
秋麗あなたの句詠む声がして
鰯雲付箋はみ出す句集かな
海からの風存分に秋気澄む  十河智


 この句集より、私の好きな句を挙げさせていただきます。

《春》
調律のラの音に冴え返りけり
はにかむやうに咲くていれぎを摘までおく
ひらひらと手話の手ひらひらと落花
さへづりや木椅子は人を愛しむ
みどりのゆび触れし四月の焼却炉

《夏》
二十四の瞳の島へ子供の日
病窓の大樹立夏を煌めかす
颯爽とアビイ・ロードを風五月
とびつきりの夫の笑顔や筍飯
青芝に頬づゑサガン読みさして
万緑へ窓開け放つ湖の宿
かはほりの黄昏連れて来るごとし
水鉄砲銀のバケツを基地として
ところてん琉球硝子の泡いくつ
願ひごとかけし風鈴なりにけり

《秋》
新涼やふと口遊ぶみすゞの詩
昼は海夜は銀河に開く窓
閉園の立て札朽ちて葛の花
いつまでも手を振る母と秋風と
約束の木の実二つを置く窓辺

《冬》
日溜まりに伸ばす手足や小六月
街の灯に物売るひとの膝毛布
絵本より翔ちて霜夜の鶴となれ
病より辛き一言氷柱落つ
まつさらな光を吸うて初ごほり


〈句集の余韻に浸りつつ、みさ子さんを思う〉

はじめからあなたは遠く空高し
死に急ぐこと難しく良夜かな
いろいろとやり尽くしまだ秋の蝉  十河智