静岡でいろいろと。

静岡でいろいろと。

【つい先頃、また静岡の娘のところへ。】

 娘と二人の東京デート。
 浜松国際ピアノコンクール入賞者のコンサート。
 伊豆旅行の弟一家を静岡でもてなすこと。

 いろいろと予定を詰め込んだ静岡行きでした。

一 旅の途中

[コミセン祭り]
 雲行き少し怪しい朝、近所のコミュニティセンターの夏祭りの日なので、お寿司と飲み物は、自治会の出す屋台で買っていきました。

夜濯ぎや明日から旅に出るつもり
いざ旅へ覗くコミセン夏祭り 

 行きと帰りに一日ずつかけ、それぞれ、美術館に寄りました。

夏の雲旅の途中の美術館 

二[佐川美術館]

 行きに立ち寄ったのは、ときどき出掛けることがある、琵琶湖畔の佐川美術館、水の回廊をうまく建物に配置した、居心地のよい美術館で、この場所が好きなのです。何が今展示されているかわかっていなくても、行きたくなるところです。
 折から木梨憲武展が最終日で、いつもの感じと違い、子供連れの若い人たちが多く、駐車場が第2まで一杯になるほど、賑わっていたのに驚きました。
 時間も限られていたのと、主人が趣味に合わず、展覧会は
素通りに近かったのです。私は、木梨憲武がこんなことをしているのかと、新鮮で、ゆっくり見てみたいと残念でした。全国を巡回するほどの実力派のようです。
 ここには、明るい水に囲まれたカフェテラスがあります。コーヒーを飲んで、ここだけにしか置いていないという「ルクセンブルクチョコレート」というものを、お土産包装で買ってみました。カフェで試してからと思って注文したのですが、通っていなかったのです。到着後、娘の家で、ミルクチョコレートにして、飲みました。とても気に入りました。
 佐川美術館を出ました。
 
また来る涼しき水の美術館
土曜日の木梨憲武展青葉
あかんぼの汗して泣けるカフェテラス
ルクセンブルグチョコレート待つ氷水
  
三[麦秋と植田]

 近江八幡まで、湖沿いをドライブ、しばらくすると、雨がぱらついて来たので停めた車のなかで、コミセン祭りで買ったお寿司を食べました。ご近所の方が作るちらし寿司で、いつもおいしいのです。
 近江の田畑の光景は、いつ見ても美しい。人の営みを感じられる。最近は麦がひろく作付られている。この時期、まだ刈り取られていないところが金色に輝き、もう既に田に水を張った場所や田植えを終えたところもあり、平野の彩りが変化に富み、面白い。
 少し先の近江八幡市のいつものお店で、晩ごはん用、すき焼き肉を1キロ、持参の保冷バッグに入れてもらいます。そして、東名で静岡へ。6時過ぎに着きました。

タンポポの黄色が揺れて風少し
黒南風やふわりとトンビ鷺カラス
顔見知る人の作れる寿司パック
琵琶湖辺を残る麦秋楽しみつ
近江牛保冷剤など携へて
靄包む伊吹青嶺や高速道
コンポジション広がる近江植田かな

四[浜松市美術館]

一週間後、大阪への帰りに浜松市のお城の隣の浜松市美術館に行った。
 上村松園展が開催中だった。松園は久しぶりだったし、浜松も歩いてみたくて、立ち寄ることにした。娘が調べて、浜松市役所が美術館の駐車場を兼ねていると知った。
 車を置いて、市役所の受付で、道を聞き、あまり眩しくない薄暑光の中を一キロほど歩く。お城の中は、風もあり、木下闇に入ると、涼しかった。美術館への道に彫刻を施した敷石があり、躓かない様に気を付けてと、注意書があった。薬の袋を娘の家に忘れてきていた。気づいてすぐにメールをしておいた。
 京都、大阪、奈良では機会あるごとに観賞する上村松園だが、このところ奈良の松伯美術館にもあまり訪れていなかった。わくわくしていた。
 意外とたくさんの作品が展示されていた。素描や、明治・大正時代の若い頃の作品もあった。ゆっくりと楽しんだ。ただ、「序の舞」が、展示されていなかったのが残念だった。入場者が混むというほどではないが、結構多かった。お城の公園に来た人がついでのように見て帰るようであった。
 展覧会を出て、浜松市役所まで、バスに乗ってみることにしました。一停留所だったが、浜松は道路が広く、バスが快適そうに走っていた。少し高い視線に、街路樹やお城の緑が、この日の風に揺れている。バス停は、市役所を通りすぎて信号を渡ったところにあった。降車時、ICOCAが通らなかったのが残念だった。急遽、小銭を探すのに、もたついた。
 信号の手前にホテルのレストランを見つけ、少し遅いお昼にした。コースといっても、簡単で、量もちょうどよかった。そこに娘が忘れ物はテーブルの下に落ちていたと電話してきた。すぐに送ってもらうことにした。
 市役所の花壇を苗のポット百個並べて業者が植え替え作業中。一日にして花壇が植え変わるわけで、ニチニチソウになるようであった。
 
浜松のお城の青葉目指しけり
万緑に踏む彫刻の美術館
足元に彫り深き石木下闇
松園の描く羅の袿かな
涼しげな絵はがき選ぶ松園展
薄暑光バス停にあるベンチ
夏の昼バスいく道の広きかな
Aコース冷製スープ良き日なり
オリーブがときどき揺れる南風
夏日なり持病の薬置き忘る
忘れ物送れとメール緑蔭に
日日草ポットの配置思案げに

高速にもどって、大坂へ。

送風機鈴鹿山地に茶畑に
一週間経ちて復路の植田かな


五[静岡で、弟一家とお茶を]

 コンサートの前にもう一つ予定がありました。

 私の弟嫁が娘達とほぼ初めての伊豆旅行を敢行し、静岡へ寄ってくれるのと合流するのです。
 弟嫁は、今まで私の親も含めて介護が続き、仕事もあったので、やっとそんな楽しみが持てる日が来たのです。
 彼女は、娘二人の住む大阪に前後泊しての三泊四日の大旅行になります。猫がいるので、弟は一緒に来ないとのこと、一人暮らしの末娘のの家に泊まるそうです。「布団はあるか。」と聞くと、揃えて置いてあるとのこと。積もる話もあるのかなと思います。
 伊豆に行くなら、私たちと静岡で合流し、娘の家に来てもらおう、と言うことになりました。
 彼女らの静岡での滞在時間はほぼ五時間くらい。富士山と茶畑と美味しいもの、が希望。
 なので、「魚河岸ずし」というコンベアはあるが注文する形の鮪が美味しい寿司屋で食事。高松とは海は海でも魚が違うし、伊豆でも料理が違ったようで、満足そうでした。
 富士山と茶畑を求めて、日本平へ行きました。展望台の夢テラスが綺麗に整備されていました。
 雲が多く富士山は見えませんでした。 少し歩くと茶畑が広がっていて、気持ちよい風があり、茶の香りがしました。夢テラスのカフェでも、新茶のこの時期は、コーヒーを出していないのです。
 娘の家に帰り、一時間ほど休息し、義妹と姪たち三人は、新幹線で帰っていきました。
 
短夜の娘の家の客布団
土地土地の海の幸あり鮪寿司
老鴬の伸びやか日本平かな
富士山を探せど夏の雲ばかり
夏の日や日本平の夢テラス
珈琲を外すメニューにある新茶
石竹や湾を見張らすところまで
夏の旅一人は猫とお留守番

六 [浜松国際ピアノコンクール]

浜松国際ピアノコンクール、その第10回大会入賞者六人のコンサートが、東京の紀尾井ホールでありました。
 それに行くことが今回の静岡のメインイベントです。
 このコンクールのことは、「蜜蜂と遠雷」という直木賞受賞の恩田陸の小説にもなり、音楽の細かい描写が話題でした。クラシック好きの主人と娘は面白く読んだようです。私は読み流す程度、のめり込むほどではありませんでした。
 娘は今年の入賞者の一堂に会するこのコンサートがあることを知り、チケットを取ったのでと、誘ってくれました。

七 [静岡から、東京へ、山梨へ。]

 東京へのお出掛けは女同士がいいようで、お爺ちゃんには、孫に将棋を教えてやってと、留守番を頼んでいました。
 それで、前日、主人は、山梨に定年後も残り、農民になった友人に会いに行きました。静岡はどの方向へ向かうにも都合がいいのです。二人で温泉に行ったと楽しんで帰ってきました。
 東京へ行く日は雨でしたが、朝から新幹線で出掛けました。

山梨の古希になる人田植え時
ふはふはと娘について夏の駅
五月雨を打ちつける窓こだま号
ツツツツツ走る五月雨新幹線
小満やピアノ習はせたる娘
青葉雨将棋教はる祖父がゐる
  

八 [東京駅、新丸ビル
 東京を歩くのは、センスがよくて、ときめきを覚えます。娘にもいい心の保養になったようでした。
 実は銀座へも行きたかったのですが、雨なので、東京駅の大丸へ行きました。八重洲中央口から見る風景は、大昔と全く変わっていました。私には大叔父に当たる人が、この一角で昭和初期から弁護士事務所を構えていましたが、すっかり立て替えられていて、わからなくなっていました。昭和の中頃にその子や孫とは行き来が無くなり、娘にも言ったことがありません。時が流れ、令和だなあと、感慨深いものがあります。
 いつものことで、私はカフェで待つことに。英国屋があったので、入りました。関西では英国屋といえばシフォンケーキ、シフォンケーキはないというのです。びっくりしました。それで紅茶だけになりました。娘がお土産にしろと行列のできる店の焼き菓子を買ってきました。
 お昼は、東京駅に近い新丸ビルに行きました。初めてです。キョロキョロ、ウロウロ。5階のイタリアンレストラン、デリツィオーゾ フィレンツェで、ランチにしました。落ち着いたいいお店でした。それから、順に下へと思っていたのですが、4階にアフタヌーンティーを見つけ、娘がウィンドショッピングするというのを、そこで待つことにしました。ここでも紅茶をいただきました。
 外は五月雨、少し上がりかけていて、小走りでビルの隙間を地下へと抜ける人、色の傘をさしてゆっくり歩いて行く人、濡れてもいいと楽しくデート中の二人、4階のティールームから見下ろす植栽の雨に濡れた緑にも癒されました。

五月雨に動かぬクレーン八重洲
令和より遠き昭和の夏八重洲
夏の天都会に血筋見失ふ
白服や焼き菓子買うて来るを待つ
新丸ビルアフタヌーンティーより青嵐
青葉雨人それぞれの歩き方
傘の赤パーカーの黄や青時雨
見えるものみな整然と緑さす
階段の闇にレースの女消ゆ 

 九[いよいよ紀尾井ホールのコンサート]

 頃合いを見て、東京駅に戻りました。 タクシーで紀尾井ホールへ。午後6時開場なのです。
 一週間後にトランプ大統領が来日することの影響なのか、都心の警備が重々しい。堅い大きい警察車両や、パトカーの赤色灯、要所要所の警察官。
 紀尾井ホール辺りも、同様でした。
 ホール前には既にたくさんの人が並んでいました。東京の行列は静かで行儀がよい。
 娘が言うには、出演者たちは、若いけれど、もうプロとして活動している、フアンが付いているような人ばかりだそうです。
 紀尾井ホールは、素敵でした。
 大阪のいずみホールくらいの規模です。
 席は三階でしたが、ピアノの真正面で、いい位置ではありました。ただエアコンの機械に近く、押さえきれないモーター音が、低く耳につき、気になりました。
 演奏は五人、一人なぜか抜けていましたが、みんな若いだけに勢いがある演奏でした。自分の好みの選曲というのがよくわかりました。それぞれが舞台を自分の世界に塗り替えていました。クラシックのコンサートでしたが、色合いが違う幅広い演奏を楽しみました。ピアノも二台好みの方で弾くのです。舞台でのピアノの入れ替えなども面白く思いました。観客は、関係者も多いような気配で、聴き方が真剣で、聴衆の方が固い感じがしました。
 このコンサートでは、カーテンコールで、出演者全員で手を繋ぎ、観客に応えるのが、習いだそうです。何年か前から、自然に始まったようで、最初ぎこちなく、ほんの数秒で一体となっていく感じが、またよかったです。コンクールという、いわば戦場を引きずらないいい幕の引きかたでした。
 終演後、娘はCDを買ったのですが、最終の新幹線に、乗れないと困るので、サインに並ぶのは諦めていました。
 またものものしい警戒の都心をタクシーで東京駅に戻り、新幹線に乗りました。私たちと同様のお出掛け帰りの人で混んでいます。
 静岡駅のパーキングに入れておいた車は、娘がためておいたという割引券で、一日置いていても、駐車料金400円でした。いろいろなサービスがあるものです。

 蒸し暑き東京永田町通過
 夕暮れの梅雨の晴れ間の赤色灯
 坂の上夏の灯仄かなるホール
 郷に入れば郷に従ふ夏の声
 夏の宵少し軽めのクラシック
 クーラーの抑へめなれどモーター音
 手を繋ぐカーテンコール若楓
夏の夜や静岡までの新幹線
 

      十河智